「三多摩レイバー映画祭」新たな予感
堀切さとみ
東京・国立の映像居酒屋、キノキュッヘで開催された「三多摩レイバー映画祭」は、本家本元のレイバー映画祭よりも、労働映画祭という名前に相応しいものだったかもしれない。
2023年5月14日(日)午後1時から7時まで。定員は40人で途中出入り自由なのだけれど、終始満員。そして映画の後には、制作者、登場人物らが解説し、会場との質疑応答が行われた。制作順に上映された6つの作品は、どれも素晴らしかった。
『人間を取り戻せ!~大久保製瓶闘争の記録』は、障がい者雇用で名をあげた大手製造会社で起きた虐めや差別、それと闘う脳性マヒの労働者の記録だ。殴る、蹴る、暴言を吐く、小便を頭から浴びせる。そんな理不尽を憎み、許さず、障害者たちは全身で闘った。会社に何も言えずにいた親たちの意識も変えていく。同情の対象から権利の対象へ。「人間を取り戻せ」という1970年代のこの叫びは、ウィシュマさんを生み出してしまう社会の中で、ますます色あせることがない。
カレー屋さんではたらくインド人が、賃金未払いで追い出されそうになった『オキュパイ・シャンティ』。2016年の作品だが、入管制度の非人道性がクローズアップされた今、より一層、外国人労働者への差別の実態がみえてくる。「ボクは労働問題しかやらない弁護士。つまりあなたたちのための弁護士なんだよ」という指宿昭一さんや、取材したビデオプレス、SNSをみて応援しようという多くの人たちによって、インド人調理師たちの表情が、みるみる豊かになっていく。「一円も報酬を払えません」と言われても、彼らの笑顔がみたくて一肌も二肌も脱いでしまう指宿弁護士は、何が最も幸せな生き方かを知っている人なのかもしれない。
『プラットフォームビジネス~自由な働き方の罠』は、現在のアプリによって管理された極限化された「労働」に迫っていた。なにが「自由な働き方」なのか!
そして韓国KBSドキュメンタリー『韓国サンケン労組』は、解雇された当事者のことを自分の問題として考え、支援し、共に闘う日本人たちにスポットを当てた映画だ。労働運動とは、労働者だけのものではない、きわめて人間的な運動なのだということを、韓国メディアが作った映画から教えられた。
『あの空へ帰ろう~JAL争議団の闘い』も素晴らしかった。御巣鷹山の事故以来、空の安全を最優先に考えてきた航空労働者たちの思い。それが蔑ろにされることへの怒り。会場には鉄道やバス会社で働く運転手も参加してくれていた。多くの人命を預かる仕事に携わる労働者が、これまでの組合では闘えないと、新たな組合を自分たちで作っている。労働組合なんて古い、怖い、というイメージを塗り替えて、本当に人間らしく生きるために頑張っている人たちがいることを知った。
ここ数年、個人加盟の組合がクローズアップされてきたが、同じ職場で働く者どおしが団結するというのは、文句なしにうれしい。整理解雇されて12年。なぜこんな理不尽なことをしたのか、どんなに問いかけても、巨大な会社はびくともしないように見える。それでも、くさびは打ち込まれている。JAL争議団の宝地戸百合子さん(写真上)が言った「正義感だけでは闘えなかった。仲間がいたからここまでやれた」という言葉を、たくさんの人たちが実感できるような、そんな運動がつくれたらいい。
映画を観た後に、美味しい料理と酒を飲みながら語り合える場がほしいと、仲間が資金を集めて作った「キノキュッヘ」。マスターの佐々木健さん(写真上)も、この店を始める前に、労組を作ったことがあるという。「三多摩レイバー映画祭」は、数多くのイベントをやってきたキノキュッヘの中でも、新たなはじまりを予感させてくれる一日だった。