<パレスチナ・ウクライナ即時停戦を!—伊勢崎賢治さんと共に考える>
「アルジャジーラを見たほうがいい」伊勢崎賢治さん
11月20日のレイバーネットTV193号は、「パレスチナ・ウクライナに即時停戦を!」をテーマに伊勢崎賢治さんにたっぷりお話を伺いました。聞き手はジャーナリストの土田修さん。伊勢崎さんは、マシンガントークでほとんど止まらず、情報量も多くて付いていくのが大変でしたが、大変刺激的、具体的で示唆に富んでいました。さすがに国連職員として世界の紛争地を駆け回り、「とにかく一人でも殺してはだめだ」の精神で和平のために体を張ってきた人です。その生々しい体験談から見えてきたことは説得力がありました。パレスチナのことでは「まず合法的に政権をつくったハマスを認めて対話することからしか始まらない」と明確でした。「アメリカ・イスラエルが主導する西側メディアではなんにもわからない」と強調。ではどうしたらいいかの質問には「アルジャジーラを見たほうがいい。YouTubeで見られる」(https://www.aljazeera.com/)とアドバイスをいただきました。オンラインの羽場久美子さんは、「グローバルサウス」の視点からみた世界情勢をわかりやすく語りました。ぜひアーカイブをご活用ください。(M)
★詳細報告「ハマスと対話せよ」ここが停戦の第一歩
報告=笠原眞弓
この放送は、11月20日の夜。ところが報告を書くために整理している22日、ネットに「4日間の停戦」の言葉がアップされてきたのです。驚くやら喜ぶやら! それがどのような結果をもたらすのかはやってみなければ分かりません。でもまるで真っ暗闇の中に新生児の呼吸音が止まる様子や子どもたちの泣き叫ぶ声が聞こえない日が訪れる喜びは、何事にも代えられません。お話の中から「停戦」に焦点を合わせてまとめてみます。(報告=笠原眞弓)
*放送:11/20 11/22にハマスから停戦提案があり、実行された。26日の時点で戦闘休止期間の延長を双方提案している
アーカイブ(90分) https://youtu.be/YOfjAWemPhc
司 会:土田修(ジャーナリスト)
ゲスト:伊勢崎賢治さん(東京外語大学名誉教授)
:羽場久美子さん(青山学院大学名誉教)オンライン参加
◆アルジャジーラの現地潜入放送を見ていると胸がつぶれる
司会の土田修さんはパレスチナの新たな紛争が始まってから、毎日、中東カタールの衛星 テレビ「アルジャジーラ」の配信するガザでの紛争(大量虐殺)の現場中継を見ているが、胸がつぶれるという。自分たちの生存権・自由権を盾に、多くの一般市民を巻き添えにするイスラエルの攻撃がなぜ許されるのかと怒りを述べ、世界各地で市民レベルでの停戦運動が盛んになっているのに、なぜ国際社会はそれを止められないのかと憤る。
ウクライナの即時停戦を求めて「Ceasefire Now!今こそ停戦を!」の声明を発表した 伊勢崎賢治さんと羽場久美子さん(オンライン)に「戦争の止め方」のお話をうかがった。
1 伊勢崎賢治さん
◆紛争の止め方 「人権」に空白を作らなければならない時がある
伊勢崎賢治さんは「紛争の請負人」と自ら名乗り、「紛争屋」と言います。この名前は自 虐的に付けたという。ジャーナリストと同じ、人の不幸で飯を食うという悲しい職業で、 敵も作るという。自分にとって「人権」は宗教なのに、この仕事は一定期間「人権」の空 白期間を作らなければならない時がある。人権侵害者の最たるものである戦争犯罪者に「 銃を置いてくれ」と頼むわけで、闘っている真最中には聞いてもらえない。少し疲れてき たときに一定期間空白にすることを提案する。それを専門用語で「移行期正義」という。
◆法の正義は裁きたい人間を裁くことではない—人権と平和は両立しない
なんと、戦犯が起訴されて裁かれるまでに長い期間が必要で、10年以上かかることもある という。それは、法はすべての人に平等であるから戦犯にも正義があり、判決までに長期 間かかるということだ。
しかも、停戦活動は、国連本部(ニューヨーク)のミッションで停戦交渉に従事し、悔し い思いをしながら戦争犯罪者の罪を不問にするが、同じ国連の人権委員会(ジュネーブ) から不処罰の文化を作っていると常に糾弾を受ける。国際紛争の和解交渉の場では「人権 と平和は両立しない」と停戦交渉の難しさを強調した。
◆停戦は妥協である 国連は中立の立場で仲介に入るが、どちらかの相手が闘い続けたい場合は停戦を潰すため に後ろから刺されることもあるので、停戦交渉の準備は秘密裡に行われる。
東チモールの時は、伊勢崎さんがこだわったのはやはり「人権」。それが言われるように なったのは第2次世界大戦直後で、世界人権宣言でうたわれた。その「人権」には、自分 たちの国だけでなく、敵国の人権も含まれるという。
ここでアフガニスタンでの経験が語られ、20年間という米軍にとって最長の戦争に敗北し 撤退した米国の軍部は、多くの教訓の中から陸戦ドクトリンを作った。そこでは国の正規 軍とは違ったインサージェント(非対称戦力)との戦いの困難さが説かれている。米軍幹 部は政治家と違ってハマスのことも「テロリスト」とは言わず、「インサージェント」と 呼んでいる。タリバンも最初は「テロリスト」と称していたが、アメリカは2006年からタリバンとの和平交渉を始めていた。かつてはテロリストであっても、今ではタリバン政権を認めるしかない。
◆日本の法律には「上官責任」がない
日本はジェノサイド条約を批准していない。北朝鮮でも批准しているのに。人間が、民族 の違いやアイデンティティのために殺されることは、あってはならないこと(日本でもジ ェノサイドは起きている。関東大震災の朝鮮人虐殺が、裁かれていないと土田さんから一 言入る)。つまり戦争犯罪は、軍人ばかりでなく、民衆も起こす(九条があっても止めら れない)。それがジェノサイド。直接手を下した人たちよりも、法的に問われるのはそれ を命じたり、煽ったりした上官責任。命令による戦闘行為で2000人を殺したら、上官の責任となる。国際法で日本も批准したが、日本は行政も含む上官責任が法で定めていないので、上官に責任を問えない(自衛隊にもないので、何を命令しても裁かれない)。大問題です。批准するには、署名するだけではダメで国内法を変えなければならないが…。野党も分かっていないという。
◆イスラエルとガザの戦いの行方は
このイスラエルとガザの戦いはハマスによる自爆的で絶望的な戦闘なのに、始まったとた んに米軍関係者でさえ「ハマスは勝利した」といったという。
1993年にパレスチナとイスラエルの「二国家共存」による解決をめざす「オスロ合意」が、イスラエルのラビン首相、PLOのアラファト議長、クリントン大統領によって締結された。それから5、6年後にエルサレムの多重統治の可能性について、ヨルダンの皇太子やペレス元首相と一緒に共同調査した。今では想像もできないことだが、イスラエルにもパレスチナに同情的な政治家がたくさんいた。だが、調査結果が出る前にリクード党首シャロンが治安部隊1000人以上を引き連れてイスラムの聖地アル・アクサ・モスクへ強行入場し、オスロ合意は吹っ飛び、第二次インティファーダ(民衆放棄)が始まった。共同調査も終わりになり、伊勢崎さんにとって辛い結果となった。その後も銃剣とブルドーザーによるヨルダン川西岸への入植は続いており、既に70万人以上がパレスチナ人の家を破壊し、土地を奪って住み着いている。
現在、ガザでは毎日100人~200人が殺されている。ホロコースト以上の殺戮が起きている。
ナチスでもここまではやらなかった。でも民衆を殺せば殺すほど、国際社会はイスラエ ルを非難するようになる。これが武力では圧倒的に劣るインサージェント(非対称戦力) の戦い方だ。ハマスはムスリム同胞団の系列でもともと、医療や社会福祉などの地域活動 をこまめにやっており、2006年のパレスチナ自治区の民主選挙で圧勝している。ガザを〝暴力的に実効支配〟しているのは西側のプロパガンダだ。自治政府に追い出され、仕方なくガザだけを統治している政治団体だ(政府はカタールにある)。今回のイスラエル攻撃は勝ち目のない絶望的で自爆的な行為だったが、国際社会の目をパレスチナに引きつけたことでハマスは既に目的を達しているといえる。伊勢崎さんの知人の米軍幹部も「ハマスは勝利した」と言っている。
2、羽場久美子さんの指摘(オンラインで参加)
◆未来に対する爆撃を繰り返すイスラエルそれを支える国は?
20世紀に貧しかったアジア、アフリカ、中南米など「グローバルサウス」といわれる140 以上の国々が、パレスチナに対する停戦を要求しているのに、反ユダヤ主義のそしりを免 れるために、アメリカ、ウクライナ、イスラエルなどが国連総会で、停戦を求める議決案 に反対し、日本、欧州が棄権しているという状況だ。
◆アメリカのユダヤ人社会でもイスラエル国内でも否定されるネタニヤフ
ところが、アメリカ社会でも戦争を止めようとする要求は民間人にも広まり、一部大学で のデモがあり、ユダヤ人社会からも認められないという声明が出された。国際社会が数日 の戦闘休止を提案しているのにも関わらず、イスラエルのネタ二ヤフは拒否。病院の中で も銃撃を継続している(23日から27日までの約束での1時停戦実施。今後に注目)。
イスラエル国内でも汚職と司法制度「改悪」でレームダック状態(死に体)になっていた ネタニヤフの退陣を求める抗議運動が起きていた。イスラエルでは極めて珍しいことだ。 ハマスの攻撃のおかげで「挙国一致内閣」をつくり、ネタニヤフは一時的に延命したが、 今後、国内外からの批判が強まるのは間違いない。このままだとアラブの海に浮かぶイス ラエルという小島は生き残れなくなるのではないかと語る。
◆ハマスは正当な政権—イスラエル自身の首を絞める彼らの爆撃
パレスチナのハマスは民主的な選挙で出来た政権であるのに、その国で他国軍が次々に人 を殺していく行為は、即刻止めなければならない。今落としている数千発の爆弾が、イス ラエル自身の首を絞めているということだと強調。
◆戦争をつくりだしているのは誰かを見極めること
日本政府は国連でもアメリカに追随しているが、今後、経済力でも中国、インドがアメリ カを抜くのは間違いない。いつまでもアメリカに追随していていいのかと土田さんの質問 に、羽場さんは「そうです」と答え、イスラエルもウクライナの戦争も、台湾有事も基本 的にアメリカが煽って戦争をつくりだしていることが、明らかになった。国連総会では、 日本を含め、欧州なども停戦賛成に回った。日本政府は中東ともいい関係があり、今後の 石油に絡んだ国益を考えるうえでも、アメリカ側に立ち反対し続けることは、国際的地位 を考えても得策ではないと締めくくった。
3、再び伊勢崎さんに聞く
◆「停戦」とは相手を交渉相手として認めること
紛争国同士が友好条約を結ぶのに数年はかかるので、国際社会が注視する中で「撃ち方止 め」にして、犠牲者を出さないことが大事。
民主的な選挙で選ばれたハマスを「テロリスト」と言っている限りは、正式な停戦交渉は できない。日本の左翼も共産党もそれが分かっていない。分かっているのは野党ではれい わ新選組の山本太郎だけ。パレスチナ連帯のデモはいいが、そのことを平和運動の中で 声を大にして言ってほしい。
◆戦闘終結の世論づくりはメディアの仕事 当面アルジャジーラの配信に注目を
伊勢崎さんは続けて、停戦にもいろいろあり、北朝鮮のように「半停戦」状態が続いてい て、大規模な戦闘は行われていないのもある。この、大規模戦闘が行われないことが大事。重要なのはそれを他国がサポートすること。つまり、国際世論を作っていくこと。 この世論作りは、なんといってもメディアの仕事である。
続けて中東の衛星テレビ局、アルジャジーラの紹介があったが、このテレビ局は、パレス チナ関連では中立的な立場を守っており、唯一ガザに記者を派遣して現地から生放送を発 信している。ウクライナに関する報道も信頼できるという。
アルジャジーラのアドレス→ https://www.youtube.com/user/AlJazeeraEnglish
4、会場とのやり取り(伊勢崎さんの答)
・国連の仕事をしていて、実際にいのちの危険を感じたことは?
伊勢崎:アフリカの人口400万のシエラレオネ共和国で内戦があり、調停に入ったが停戦 合意だけで3回破られ、その都度戦闘が起きて、部下が亡くなったことがある。武装勢力 は和平交渉をしたくないから、国連職員を狙うわけです。
・メディアに関して気を付けること
伊勢崎:日本のメディアは、アメリカ寄りなので、先も紹介したアルジャジーラの映像を 見てほしい。英語だが、映像を見るだけでもガザで何が起きているかが分かると勧める。
・市民は、今、何を政府に呼びかけたらいいのか
伊勢崎:「ハマスと対話せよ」それだけでいい。 ハマスは政体としてしっかりしている。タリバンだったら人質を返さないでしょう。米軍 は20年かけて戦った「テロリスト」のタリバンに、2年前に負けた。その経験からハマス を「テロリスト」とは言わずに「インサージェント(非対称戦力)」と呼んでいる。この 違いは重要なことだが、日本人の多くは分かってくれない。アメリカの政府も何も学んで いないから、いまだにハマスをテロリストと言う。
・最後に言いたいこと それは「まず停戦!」
伊勢崎:「平和と人権」を正義とするなら、それは同時に両立しない。戦争犯罪や和平に つながる領土問題などは解決までに時間がかかるので、とにかく人命を救うことを最優先 にし、先ず停戦した後、時間をかけて話し合う。
日本は九条を持っている国だし反戦運動の歴史がある。どんな戦争であっても日本人は戦 争を止めようとするものだと思っていたのに実際は違っていた。ウクライナで戦争が始ま ると、護憲派や共産党までがゼレンスキーの演説にスタンディングオベーションを送った。ゼレンスキーはアメリカが武器を供与して戦っている国の「政治家」だ。彼は国民を総動員して戦わせているとんでもない人物だ。太平洋戦争で何百万人もの人々が犠牲になった国なのになぜこんな男を賞賛するのかわからない。
ウクライナの人々には、深く同情はするが、ゼレンスキー政権に対してはまったく別だ。 とにかく一人でも犠牲者を少なくするため、ウクライナでもパレスチナでも「即時停戦」 を訴える世論を形成していきたい。
●ジョニーと乱の5ミニッツ
川柳 これほどのガザの叫びを聞け世界 乱鬼龍
耳済ませ脆い平和の割れる音 芒野
ジョニーH ヨルダンの子どもが発信した歌(替え歌)「心の鼓動2023ガザに思いを寄せ て(心の鼓動)~アンサムと40人のこどもたち」