運転技術より、上司への配慮が大事と労基署は言う。「エッ?」と思う。労働者を守る立場の部署からも労働者が疎外される。 こういう話を聞くたびに、労働問題は究極の人権問題だと思う。その視点から、雇用者も被雇用者も見直し、快適な人生を送れるようにと強く願う。(報告:笠原眞弓)
<パワハラ横行!バス業界の闇> 2024/2/28 レイバーネットTV196号
企画・司会:堀切さとみ
ゲスト:
矢口正(西武バス運転手、西武バスユニオン執行委員長・現役運転手)
槙野圭(国際興業バス運転手、労災申請中に不当解雇)
Aさん(西武バス運転手)
◆バス運転手が足りない
過疎地のバスばかりか利用者の多いはずの都市部でも本数減・廃路線が起きている。 バスの運転手不足を自動運転で乗り切る試みが進行していると新聞を示しながら、堀切さとみさんは話しはじめ、現場の運転手の3人を紹介する。
◆「街の声映像」⇒バス運転手の人手不足の理由を街ゆく人に聞くと「給料が安い」「上司からの苦情」「運転路線が日々変わるようで…」「クーラーの効き方が…」等々。
◆そもそも運転手は減っているのか?
西武バスユニオン執行委員長の矢口正さんは、2022年度の資料(厚労省)を示す。
平均年齢:53.4歳、平均勤続年数:13年、労働時間:193時間、年収:約399万円、続けて全産業平均と比較して、いかに劣悪かを示す。
◆裁判が増えている
堀切さんが裁判を傍聴した西武バスの中村文治さん(25歳で入社)が起こした裁判では、就職2年で解雇通告を出されたというもの。矢口さんによると、中村さんは当初の「圧迫面談」で恐怖感が増し、在籍の労組などに相談。そこでは適切な指示が得られず、矢口さんに相談。原因は宴席で上司に質問したことで反抗的人物と思われ、以後嫌がらせや難癖と思えることが頻発した事例。指導、教育の名の下に圧迫面談が増えて挙句の果て「自宅待機」から「解雇」へと進んだという。
矢口さんは以前に自分も同様の体験があったので、会社に異論を言う者への仕打ちと思ったという。
◆なぜそれで自宅待機?~矢口正さんの場合
矢口さんの自宅待機の原因は、注意してもやまない児童の「車中の歩き回り」対策を、バスを止めて社に指示を仰いだことがやりすぎということ等だった。
(出勤停止の穴埋め人事は?)
余裕をもって人を配置しているので、カバーしあえば、何とかなってきた。例えば、早番が少し遅くまで、遅番が少し早出してという具合に。 当時から「人権デューディリジェンス」*というのがあったが、会社も我々もその知識が足りなかったと反省している。
(*人権デューディリジェンス(人権DD)とは、企業がサプライチェーン上を含めた事業における人権リスク(例:強制労働など)を特定し、その防止・軽減を図り、取組みの実効性や対処方法について説明・情報開示する、という一連の行為を指す。2023/02/27 Yahoo!より)
◆自宅待機から普通解雇へ~中村さんの場合
中村さんは、自宅待機3か月後、普通解雇(懲戒・整理解雇でもない)になる。
解雇理由は4つ。
1、安全運転の順守義務、2、接遇順守義務(乗客への感謝の言葉不足) 3、超過勤務の虚偽記載(乗務終了後アルコール検査もするので把握できるのに) 4、適正運賃収受違反(徴収法のシステム的問題)。
裁判は10数回開かれ、毎回傍聴席が埋まった。裁判の途中で、解雇理由を変えてきたのもおかしい。当初技能不足だったが、証明しにくいので、規則違反になった。
◆なぜ解雇になったか?
中村さんは、新人なのに運転の難しい細い道の路線を担当していた。そこを慎重に運転し、無事故だった。でも解雇されたのは、微妙な上司との関係のようだ。お客の安全より、職場の人間関係が優先している。
◆組合の力
中村さんの友人も会場から発言し、彼の言葉を裏付けた。続けて、西武バスは新人を教え導くのではなくて、あら捜しをして、優越感を持つところだと思ったと。
今企業内組合が減少する中での、西武バスの組合は心強い。他にも何件かの裁判闘争が進行中とか。
◎ここで休憩タイム ジョニーHの替え歌コーナー:『バス運転ストップ』(バス・ストップ)
◆レターパックの品名欄に踊る「解雇通知」の文字―槙野圭さんの場合
国際興業バスの運転手の槙野圭さんは、入社7年後に解雇通告が8月20日の日付で、レターパックで自宅に届いたという。品名の部分に「解雇通告」と書かれていて、すごく驚かされた。
もともと職場のパワハラで精神疾患を患って休み、労災申請をしていたが、その期間中のことだという。しかも解雇通知の前に届くべき解雇予告は、その半月後に8月22日の日付で「休職期間満了に関する予告通知書」として、これもレターパックで届いたという。雑な仕事ぶりだ。
◆憧れのバス運転手になって
槙野さんは、子どもの頃バスの運転手になりたかった。東日本大震災のボランティア中にそのことを思い出して、バスの運転手になった。それまで、大型免許で仕事をしていたので、運転自体は大変ではなかった。この会社に入って驚いたのは、昭和の頃の閉鎖された息苦しさを感じる会社だということ。
バス会社は師弟関係があり、出勤時間など様々注意され、告げ口やマナーの押し付けがあったという。決定的だったのは、パワハラを受けていた同僚が、内容証明の手紙を加害者に出した後、槙野さんがたきつけていると勘違いされて、「○○に手を貸すな、殺すぞ」「警察に言うな。ここにいられなくする」という脅迫文やカッターの替え刃が届き、自分を辞めさせる集会が行われたこと。そんな中で心が折れていった。周りを見ている限り、他にも精神的に追い詰められてやめていく人が多かった。
◆労基署の仕打ち
槙野さんは頑張ったが、精神的辛さがドミノ倒しみたいに倒れて来て、パワハラとして労災申請を出した。それから4年、労災は認められず、審査請求も棄却になった。今は再審査請求中だが、ここに来て分かったことは、労基署が話を聞いたうち、10人が加害者側で、1人にしか自分の味方がいなかったこと。しかも労基署は槙野さんを守らず「一人を守るために加害者を(多数だから)異動させることはできない」とし、自宅から通勤するには遠い営業所への転勤を彼に提案した。新しい職場になじむのは、本人次第だとも。さらに証拠提出や加害者側以外の話を採用してほしいといっても、断られた。
現在の国際興業バスは、運転手を大募集中だが、新規採用者は、50~60代が多いとか。穴の開いたバケツのごとく辞めていくので、追いつかない状態だ。
「労基署があてにならないのは、これが特別なのか、一般的なのか?」に答え、矢口さんは、相談に乗ってくれるが、法律を越えたことに対しては出来ないという。それ以上の問題が起きれば「労働局に行ってください」となる。今裁判中の中村さんのように何年もかけるのではなく、もう少しスピーディーに対応してくれれば、彼も体を壊さずに済んだのではないかと思うと話した。
◆会場から質問
Q:運転手の労働問題は、介護労働現場の問題と酷似している。ものを言ったら出勤停止。今、労働現場が、そうなっていると感じるがどうか?
A:(槙野さん)派閥に入っていなかったからと労基署に言われた。入らないでプレッシャーを受けるかしかないと、このまま闘争を続ける覚悟を語る。
一時、体が辛くて、ベッドから起き上がることも出来なかった。毎日が重さに耐えきれず、潰れそうだった。
Q:それでも、辞めなかったのは?
A:(槙野さん)やりたかった職業で、お客様に「ありがとう」と言われるのが喜びだった。
◆闘い継ぐことで
・矢口さんが労働組合を立ち上げたのはなぜ?
自分の経験から、労働組合がないと助けてくれるところがないからと。労基署に行っても「これ以上は出来ないから、個人訴訟をしてください」といわれる。それならば、自分で勉強して力をつけて、自分で改善していこうと思ったと。
闘えば闘うほどプレッシャーを受け、他の人を助けると助けた人も目を付けられるという中で、新たなパワハラが起きないようにしたかったという。
会社は、運転手がいないとバスは動かないのに、どうも管理職がいないとバスは動かないと思っているかのようだ。
・Aさんは、運転手は、大変な仕事で、サービス業でもあり、日々歯を食いしばって頑張っている。でも実際に運転していると、やりがいのある楽しい仕事。お客様には、寛大な心で応援していただきたいという。
・矢口さんは、提供する側も利用する側も笑顔でいられる環境を作りたい。地方の交通網の廃止、縮小の中で、鉄道もバスもジャンルを越えた「日本輸送サービス労働組合連合会」(#JTSU)という組織を作った。 X(旧Twitter):https://twitter.com/jtsu_e_2020
近く「劇団ブラックカンパニー」を立ち上げるとか。劇団員募集だそうだ。
・槙野さんも、たくさんの方々の応援を受けてこのパワハラと闘ってきている。と同時に、いま、ガンとも闘っていて、もしそれで死ぬことになっても、皆さんから元気をもらいながら悔いを残さず闘っていきたいということだ。
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次回は3月13日 13年目の3.11 原発特集「原発とマスコミの大罪」
ゲスト:青木美希(ジャーナリスト) 東海林智(毎日新聞)