今回の放送で強く感じたのは、技術者の「そこから先」をどう見通すかによって、そのプラントの安全性が大きく変わるということ。                                                            技術者はどこまで見ているか、設置者はどこを見ているかを私たちはしっかりと把握して、一般市民はどこに重きを置くかだと、つくづく思った。
地震や大型台風等、人間の力ではどうにもならない災害が頻発する中で、取り上げたのは、原発の安全性である。ほんの少し間違えば、日本は、イヤ世界は壊滅するのだから。
  (報告:笠原)

<大地震・大災害に備え、全原発を止めよ!〜後藤政志さん緊急アピール>
2024/9/11 レイバーネットTV第204号
視聴サイト: https://www.youtube.com/watch?v=wvW3ySfzbpg
司 会:黒鉄好(原発事故当時福島勤務)
ゲスト:後藤政志(元原子力プラント設計技術者)
   :村田弘(福島原発賠償神奈川訴訟原告団長)

◆本日は、これまで複数回放送してきた尾澤孝司さんの判決の日なので、特別にその結果を速報―—
 なんと裁判が始まってすぐ、何の反証もしないという裁判のやり方に異議を申し立てた被告は即退廷。被告のいない中で、不当判決文が読み上げられるという事態に。怒りの被告側の映像がスタジオに響いた。闘いはまだ続く。

◆地震列島日本に原発はいらない―—志賀原発の真実
後藤政志さんの能登島地震後の6月の珠洲の原発建設予定地の視察映像からはじまった。驚くべきは、海岸隆起である。それまで海底にあり漁港だった所が4メートルの隆起により完全に陸地化し、なんとも不思議世界が展開されていた。もしここに原発があったら……と思うと、なんとも言えない悪寒が走る。当時ここに活断層があるとは分かっていなかったとはいえ、あまりの変化に言葉もないという。
○志賀原発は爆発当初メディアに公開しなかったのは?
志賀原発をすぐに見せられないわけがあったと後藤さんは推測する。断層の上にある原発の図を示しながら、断層というものは、周辺の活断層が動いたときに活断層であろうがもう動かない断層であろうが動く可能性がある。志賀にある断層も動くのでではないかと心配しているといい「新旧の断層のあるところには原発を作ってはいけません」と断言する。
地震でずれた時30㎝迄大丈夫と発表したが、どこまでずれると崩壊するかは計算しているはずなのに、質問に答えなかったともいう。
○若狭湾は複雑な地形と複数の原発がある。そこで爆発が起きれば
・琵琶湖が汚染したら、関西の水がめは半永久的に使えない
・京都が被災すれば、文化遺産がダメになる。
この2つが大問題ということ。
・黒鉄さんの知人が、滋賀県庁に高浜や敦賀の原発が爆発したらどうするのか質問したところ「琵琶湖の湖面に、ブルーシートを掛ける」と驚くべき答えが返ってきたという。
○もし原子炉が爆発したら…… 最終的に水鉄砲で放射能を打ち落とす
・原子炉のコントロールに失敗して外部に放射能が漏れた場合は、大きな水鉄砲で、放射能を打ち落とす―—これが日本の放射能対策の公式な最後の砦だと。こんなことは国際的に言えないと後藤さん。

○原発の他のエネルギーシステムにない特徴は
・冷却に失敗すると、無限大にエネルギーが上がり続けてコントロールできなくなる。
・そのような過酷事故(シビアアクシデント)は、以下の単独または組み合わせから起きる。
1 自然現象(地震・津波・火山)
2 機械の故障
3 人のミス

○過酷事故(シビアアクシデント)が起きればお手上げとなる
原発に備わっている「止める/冷やす/閉じ込める」に失敗し、過酷事故(シビアアクシデント)が起きた場合、現状では収束出来ない。だから事故を起こしていない今「すぐ止めろ」というのだと後藤さん。
「外部から冷却するための電源などを持ち込み、人海戦術で対策する」とマニュアルにあるが、これは絵空事だという。それを電力会社も、規制委員会も理解していないと続ける。

○設計通りに動かないことも!
設計段階では、さまざまなことを予想しているが、実際にはその予想を超えた状況になることが多い。福島事故でも安全装置がきちんと作動していなかったのだが、その場合どうするという仕組みができていなかった。そのような設計上の問題は随所にあった。

○恥ずかしくて世界に言えない原発最終手段は水鉄砲で冷やす
なんと正式な事故処理の最終手段は、「巨大水鉄砲で放射能を打ち落とす」というのが決まっているが、そんなこと出来ないし、恥ずかしくて世界に言えないという後藤さん。
つづけて後藤さんは、通常運転中、人はそんなにいらないが、事故が起きれば大勢が入る。地震などの場合、その人たちが入る道がないことも、大いにあり得るという。

〇「運よく軽くてよかった」羽田事故 マスメディアの伝え方は間違っている
 後藤さんは、羽田で起きた2日の羽田の飛行機事故の報道の仕方や事故の軽重の捉え方に危機感を示す。日航機は全員助かったので「素晴らしい」ではなく、1メートルずれていたら、最悪の事態だった。「それを避けるには」という視点で検証するのが、事故対策だと。メディアもそこを注視するべきと力説し、それが次の事故を防ぐと。志賀原発についても、その視点で論ずるべきである

◆ジョニーと乱のコーナー
〇川柳 テント13年まだまだ歩む明日がある    乱鬼龍
    デブリから見えた原発総破綻       乱鬼龍
   ○ジョニーHの歌のコーナー
    ミサイルは喋らない(元歌「もしも壁が喋ったら」) 

◆13年間の強制避難生活を継続中で、原発訴訟に取り組む村田弘さん
原発事故のあったとき、定年後南相馬の小高区で百姓をしていた村田さんは、ご夫婦と猫で強制避難をして13年。今は猫を見送り、お連れ合いと避難生活中で「福島原発賠償神奈川訴訟原告団長」をしている。

○判決の結果と司法の実態を知ると―—国家賠償を認めなかった裁判長のその後
村田さんは、現在関連死は2300人を超え、自ら命を絶った人も100人以上いる。しかも強制避難は今も続いている。一方で、デブリ取り出し1つに大騒ぎしている。それが原発事故の実態と現状を嘆く。被害者の気持ちとしては、司法がストップをかけてくれる以外に、原発を止めることは出来ないと思うという。
被害者が中心になった国賠訴訟と、何しろ危険な原発を止めろという2つの大きな訴訟があり、現在、40以上、原発での損害補償の裁判をしているが、2022年6月の最高裁判決で「規制をたくさんしているが、今回の事故はその予想を超えていて、防げなかった」と国家賠償を認めなかった。その判決の影響の大きさは計り知れず、その後の裁判の判決に影響が出ている。
その裁判にかかわった菅野博之裁判長は一か月後に退官。その後すぐに原発容認の大きな法律事務所の顧問になった。草野耕一判事の意見書を読むと、最高裁判決は、高裁までに確定した事実に拘束されることになっているが、それに従っていないと、自主的に裁判から降りろと要求されていた。
この判決以降、それまでの各裁判では、国の責任の有無は半々だったのが、圧倒的に「国に責任なし」が多くなった

◆視聴者との質疑
○自民党は柏崎原発の再稼働をもくろんでいるが、阻止できるのか?
 ・後藤=世論を盛り上げるしかない
 ・村田=それができるのは、しっかりした司法だと思う。だが司法はそれをやらない、やっていないのが問題と。
○メディアの力に変化はあるか?
 ・後藤=韓国や中国のメディアは矜持が感じられたが、日本のメディアは終わった  、きちんと伝えようとしていないと感じた。
それまでいいと思っていた某テレビは一番良くなかった。30分以上きちんと話をして録画したのに、上からの指示で中止になった。
 ・村田=今年の6月17日に周囲738mある最高裁をヒューマンチェーンで取り囲んだ。それを報道したのは、東京新聞と小さな地方紙だけだった。それだけではなく、他の裁判所が判決を出してもそれをほとんど伝えていない。それが現状。
○デブリ問題について。一体どうなっているのか
・後藤=デブリを調べたい気持ちは分かるが、不可能に近いことをしようとしている。復興の形を取り繕うためにやっている感が強い。もし仮に、取りだせても、どこにどう保管するのか?取り出したデブリは、今後長期にわたって水冷しなければならず、汚染水が発生する。その水の行き先は海洋投棄となる。
デブリは原子炉の中に閉じ込めておけば空冷も可能で、汚染水の大量発生はなくなる。
それとは別に、今回の現場での事故発生は、技術的なもの以前の問題で、関係者同士コミュニケーションができていなかったのではないか。そんな状態でデブリの取り出は出来ない。

○原発の安全性や機能など、全体を俯瞰できる人はいるのか?
お二人はこもごも、原発の安全性について司法の多数は理解していない。法律は安全のミニマム(最低限)を決めるが、その先は技術者が追及していく。一つの言葉の解釈をめぐって意見を闘わす。それをするか否かで安全性が決まってくる。それが今は出来ない状態だ。そんな国で原子力を扱ってはいけないと力説する

○原発を止めるのに大事なことは—→世論を盛り上げること
長い裁判を勝ち抜くには、世論の盛り上げ、例えば「地震があったら、原発恐いね」というだけでも違うのではと黒鉄さん。
村田さんはそれと同時に「実際に事故になったら、こういうことが起きる」ということを伝えていくことだと。
後藤さんは「想像力が大事」と強調する。事故後一緒に働いてきた2人の仲間をガンで失っている。証明は出来ないが、リスクは高い。デブリや廃炉などの技術的なものから司法まで、全体を俯瞰して今後の原発政策をどうするという想像力が求められている。

◆本の紹介
雑誌『金属』の後藤さんの書いた部分の抜き刷り『特集 原発の現在を問う―—明らかになった新知見』が紹介された。

次回(205号)9月25日(水)19時30分~21時:
都知事選で負けたのは「生活と労働」だった ゲスト:竹信三恵子
・視聴サイト https://www.labornetjp2.org/labornet-tv/205/
  (YouTube配信 https://youtube.com/live/mhPGLRRNz_w?feature=share)