〈豊かな本と映画の世界 そして現実を知る〉
年の暮れとなり、年内最後のレイバネットTVは、恒例の本と映画について。今年も豊かな本の世界と映像の世界が狭いスタジオに繰り広げられた。 報告:笠原眞弓
<映画と本で振り返る2024年> 2024/12/11 レイバーネットTV・第210号
・視聴サイト:https://www.youtube.com/watch?v=xctfoS2EUkk
本 :ゲスト 志真秀弘さん(レイバネットブッククラブ) 聴き手 ワカメ
映画:ゲスト 永田浩三さん(武蔵大学教授) 聴き手 堀切さとみ 笠原眞弓
◆ブッククラブが50回を迎えた記念企画の発表
◎『私の本との出会い』2025/1/11(土)午後2:00~4:00(郵政共同センター)の発表から始まる。
それぞれの方に参加者全員に心に残る本を語りあう。
◆当クラブが、今年読んだ本
『イスラエル軍元兵士が語る非戦論』(ダニー・ネフセタイ) 著者は12/25のレイバーフェスタにいらっしゃる。
『アンブレイカブル』(柳広司)
『ルポ低賃金』(東海林智)
『コスタリカ』(伊藤千尋)
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆)
◆志真さんの本の紹介
『未明の砦』(太田愛)
ワカメ:著者は、メトロコマースの闘いについても書いていて、事実か改変されたと抗議したという情報もあるとか。太田愛さんは、非正規労働者について考えて来ていた。
あらすじ:4人が派遣工として働いていた。行き場のない夏休みに先輩の田舎へ行く。そこで労働者の権利に目覚め、労働組合を立ち上げるが、共謀罪で訴えられるなど、ハラハラドキドキなのだ。
ここで一部朗読!(なかなかの迫力)
房総の旧家のおばあさんと出会ったことで、労働者の権利に目覚めていく。
『少年が来る』『すべての若い者たち』『別れを告げない』(ハン・ガン著)
初めて韓国人が、ノーベル文学賞を受賞した。
授賞理由「歴史的トラウマに立ち向かい、いのちのはかなさを強烈な詩的散文で表している」と評価。まだ若いが、ヨーロッパでも人気の作家だ。
志真:『少年が来る』(光州事件を主題とした作品)は衝撃的だった。1980 年5月18 日の光州を題材としていることもあるが、文章が端正である。彼女はもともと詩人なので、言葉を選び抜いて仕上げていく。
『別れを告げない』は、済州島の4.3虐殺を取り上げたもの。
ワカメ:『少年が来る』を読んでいる最中に韓国の尹大統領の問題が起きたので、1980年代にタイムスリップしたかと息が止まりそうになった。民主化は獲得したもので、それを守って維持していくという闘いがあったからこそ今があると思う。「ろうそく」の出てくる場面を朗読。ろうそくの臭いで、光州事件で殺された方の遺体の安置場の匂い消しに使っていたり、祈りであったりする。それを象徴した表紙のろうそくの絵だという。
志真:韓国の現代文学を翻訳してきた斎藤真理子さんは、歴史が韓国文学のキーワードだと言っている。彼女のような翻訳家がいたからほぼリアルタイムで彼の国の文学を読むことができた。その役割は大きい。
また、韓国の現代史は、日本による植民地支配、南北分断、朝鮮戦争、軍事独裁政権による人権弾圧など、傷だらけだ。国会前に集まっているところで、若い女性が、銃剣をぐっと押す。あの場所に行くこと自体殺されるかもしれない。韓国の民衆の抵抗闘争の広がりをつくづく感じた。
『地震と虐殺』『地震と虐殺』(安田浩一)は、記憶をつなげていくことが大事と言っている(記憶のバトンと表現)。この本を読まれた方は、自分がバトンを受け取ったという思いで読んでほしいと締めくくった。
◆映画コーナーは永田浩三さん
・最初にできたてほやほやの永田さんの著書『原爆と俳句』の紹介 推薦文が昨日ノーベル平和賞授与された被団協の代表の田中輝美さん。
・永田さんは、本のコーナーでのはなしで、記憶をつなぐ「バトン」の話があったが、原爆の句の一句一句がろうそくの明かりのようなものでもあるし、原爆という人類最大の悲劇を世界で一番短いと言われている17音でバトンをつないできたということという。
ここには川柳の章もあり、レイバーネット川柳班のものも収められている。
◆今年の一押し」の発表から(推薦一覧は別項にてアップ)
『ゴジラ-1.0』
永田:ビキニ事件から70年の今年、ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(被団協)は、ビキニ事件が終わって2年後に立ち上がった。アメリカの検閲があっただけでなく、それまで原爆被災者は声をあげることも出来なかった。
『オン・ザ・ロード』
永田:1980年代、金大中という政治家が何度も挫折を繰り返しながら不屈の魂で如何に大統領に上り詰めていくかが描かれている。取り調べ場面を含め、映像記録がこんなに残されていたのかと驚く。
『関心領域』
永田:ナチスの強制収容所の塀を隔てて聞こえてくる屋敷に暮らす所長の邸宅の様子。ナチスの問題を手を変え品を変えて問題を取り上げていくことは、すごいと思う。表し方も、映像の可能性を試している感じで、以前にやっていないことをやろうとしている。
笠原:ナチス映画には、ドイツが助成金を出すと聞いたが、そうして戦争を止めていくことは、すごいことだと思う。
永田:境の向こうは虐殺現場で、叫び声も臭いもするだろうに、まるでないかのように流れていく。
『箱舟にのって』
永田:宗教がらみで、その世界では追及が進んでいる。メディアではバッシングがひどかったが、当事者たちは「そうではないよ」と捉えられていた。
『決断』(3.11の母子避難作品)
永田:来年3月江古田映画祭でも上映予定。
『ちむぐりさ』
永田:少し古い映画だが、主人公は珠洲の旅館の娘さんで、不登校を経て沖縄のフリースクールへ。そこで沖縄について学び、初めて沖縄の問題に向き合う。卒業後故郷に戻り、今は25歳になられる。
今年は、能登地震や大雨被害などで、彼女やその周りの生き方が注目を集めている。
笠原:封切で見た。私の友人が能登周辺に何人かいて、彼女の様子をきくことがある。
『映画〇月〇日、区長になる女。』
永田:話題になり、今でも上映会が続いている。自分も応援団の1人だった。区政は議会がしっかりしていないと、区長だけでは何もできない。「名ばかり立憲民主党」の議員が半分くらいたいが、その後岸本さん(新区長)がやりやすいように本当の立憲民主の人に入れ替わった。
笠原:地元で市民連合に参加しているが、参考になった。方向は同じでも立場の違う人たちとやっていくヒントがあった。
永田:衆議院選、兵庫県知事選もそうだったが、日本の選挙や政治が少し変だと皆さん感じていると思う。候補者がどういう人かの情報を得ることが難しい。「メディアが伝えていることは嘘」「いじめなんだ」と一部の影響力のあるSNSの発信者が拡散して一気に流れを作られるのはおかしい。最初のスタートのところをどうしたらいいのか。(立花さんへの批判が続く)。しかし、この映画は今回の一つ前の選挙のことだ。
『映画〇月〇日、区長になる女。』は、今年のレイバーフェスタで上映される。12/25、ココネリホール。区議のてらだはるか杉並区議のスピーチあり⇒https://www.labornetjp2.org/festival/2024/
『アイアム・ア・コメディアン』
堀切(推薦):テレビに出ていたころは知らなかった。メディアの真髄について考えさせられた。スタンタップコメディアン松元ヒロもいるが、30歳若い若者が頑張っている。
永田:チャーミングだった。故郷に帰って家族に大事にされてきこと。その故郷が原発の中で変わってしまう。お父さんは原発で働いていて、晩年次々病気にかかって亡くなる。
言っていることはきついが、愛がある。
◆永田・笠原のお薦めは!
『かづゑ的』(監督:熊谷博子)
永田:ハンセン病にかかった本人が書かれた本2冊『長い道』『私は一本の木』に誘われて撮影されていく。
裸になって「お風呂に入るところを撮ってください」がロケの初日だった。熊谷監督は度胸のある人だが、その度胸が試されて監督のいいところがこの作品に結集した感じがする。
笠原:監督によると、自分は断るつもりで会いに行ったとか。最初から彼女に魅せられて、撮ることになっていたと。彼女は子どもの時からものすごい読書量だったそうで、高齢になってから手に棒を括りつけてワープロを打つことを覚えてからは、どんどん文章も書いていったと。今はまた病状が進み、口述になっている。本当にお勧めしたい。
(予告編が流れる)
永田:施設の中に図書館があって、そこでの読書量はすごい。
笠原:ハンセン病というと、運動している人しか表に出てこないけれど、かづゑさんが言うように、ハンセン病でも「普通に」生活している人。自主上映で見てほしい。
堀切:かづゑさんも、自分の書き残したものに支えられているが、記録を残すということは、大事なことだと思う。
『どうしたらよかったか?』(監督:藤野知明)
堀切:記録を残すという意味ではこの映画も大事。統合失調症のお姉さんを弟が20年間撮り続けたもの。
永田:お姉さんは優秀な人で、両親とも優秀な研究者。医者の診療を受けない両親に対し、弟は医療につながった方がいいのではないかと思って撮り始める。撮り進んでいくうちに、両親の思いなども分かってくる。
笠原:子どもの時にお姉さんに愛された記憶があるから、姉を守りたいという気持ちがあり、両親と衝突するが、不思議な家族だと感じた。
永田:家族の苦しみや、両親が現実に向き合うことが出来ないことを撮っている。
堀切:今、都内3館でやっていて、満席とか。統合失調症に関係なく、それ以外のものがこの映画にあると思った。
永田:学生がこの映画で論文を書いたが、家族のことや本人の苦しみなどに応えてくれる映画だったと。「いい映画」とか「よくできている」を越えていた。見えない家の中で、弟が戸惑いながら撮っている。最後お姉さんが穏やかになって行く。時間が人の苦労を癒やすんだなァということも、教えてくれた。
笠原:若々しい女性が中年になり、体形まで変わってきて……。家族の歳月の変化が目に見える。
『あなたのおみとり』(監督:村上浩康)
堀切:家族を撮ったものでは『あなたのおみとり』などがあった。
永田:あれは仙台の話で、両親が学校の先生だった。息子が記録していく。最初の入浴サービスシーンで、そのプロフェッショナルぶりに驚くところから始まる。
堀切: 監督は、プライベートビデオは撮りたくなかったらしい。介護をするのが辛くて、記録することにした。親を撮りながら社会的に役に立つ記録を撮った。
永田: ご両親とも立派な学校の先生で、息子としてはお母さんに負けていた。映像を撮ることで、お父さんのところに通えた。
笠原:最期のシーンがよかった。お父さんの希望でお母さんが小学唱歌をずうっと歌う。その歌声の中で亡くなり、それでも歌声はやまない。
『うんこと死体の復権』(監督:関野吉晴)
堀切:この映画は、タイトルでソンをしているのではないかと…。
永田: 3人の面白い人が登場する。ノグソ歴50年ふんど師(元々はキノコの写真家)という人が出てくる。その人に惚れ込んでいる女性ノンちゃんも野糞をする。
笠原:最初は気持ち悪かったけど、途中から地球はすべての命の循環からと。温暖化が差し迫ってきたとき、「人間はどうなる」と視野が狭くなっていたが、この映画を観た時、人間も自然の輪廻の中の一つの存在にしかすぎないとまた揺り戻れた。
永田:実は今朝家の前に犬の糞があって、いつもなら不快になるのに「何を食べているのか」と観察して、怒るのを忘れてしまった。
『越後奥三面―山に生かされた日々』(監督:姫田忠義/1984年公開版のリマスター版)
永田: 越後奥三面とは、新潟県と山形県の境の山村。そこがダムに沈む。その前にここの暮らしを残したいとして、その集落の暮らしを記録したもの。
例えば、大きな木は、雪の季節にしか下せない。なぜなら雪で下生えが覆われたとき、その上をそりで降ろしていける。
笠原: 民族文化映像研究所の映画は、どれも先祖からの知恵が凝縮していて、すごいですから、ぜひ観てほしい。
『正義の行方』(監督:木寺一孝)
堀切: 今年は冤罪をテーマにした映画が多かった。
永田:袴田事件の一連の映画や福岡の飯塚事件『正義の行方』などがあった。
堀切: 『正義の行方』は、死刑が執行されてしまってからだったが…。
永田:目撃証言があやふやだったり、西日本新聞や検察が誘導したのではとか、当時の記者たちが反省の弁を述べたりとか。西日本新聞の記者さんは実に立派だった。
◆チャットなどから
・「どうすれば……」をぜひ観てみたいと思った。(ウチガメさん)
・「生きて生きて生きろ」を上げたい。原発事故は戦争のようなものと思っていたが、沖縄戦の生き残った人、ベトナム帰還兵に現れる晩発生PTSDと同じような症状が原発事故被害者にも見られると聞いて、やはりと思った。(鈴木さん)
堀切:3.11の甲状腺がん裁判に行ったが、甲状腺がんになった子どもが300人くらいいる。しかも重篤。それでも原発事故とは関係ないという。被害者が証明していかなければならない。そこでPTSDの話が出た。10、20代の若者のガンは高齢者とは違い、戦争と同じで、結婚や就職など人生これからが閉ざされる。
◆メディア社会学を学生に指導する中で大切にしてきたこと
堀切:自分から発信することが容易になった中で、これまでは観る側だった人たちも、発信者になれるようになった。永田さんが学生を指導するに当たり、大事にしていたことは?
永田:ただ一つ「現場から学びましょう」だ。現場に行ってみたら、ネットの情報で思い込んでいたものと、全く違うことに気づいていく。気づいたものは記録して、他の人にも見てもらいたい。それがドキュメンタリー。教えてくれる先生は「現実」ということ。
それを16年やって来年3月退官予定。
200本くらいの学生の作品を誰でも見てもらえるようにしたと思う。
★次回のTVは年明けにご案内予定