永田浩三(ジャーナリスト・武蔵大学名誉教授)

 アップリンク吉祥寺での初日・初回は満員だった。映画『トロフィー』の監督孫明雅(ソンミョンア)さんは在日朝鮮・韓国人3世。自身もかつて朝鮮学校に通っていた。映像の世界では、是枝裕和さんや西川美和さんのもとで長く仕事をした。撮影は山崎裕さん。名人たちの薫陶のおかげもあったのだろうか、映像は品がよく、女子生徒の描き方の瑞々しさ美しさが際立つ、爽やかな作品だ。

 主人公のソヒは14歳。曾祖父母が済州島出身。朝鮮籍の4世だ。演じるのは恒那さん。恒那さん自身も在日だが、朝鮮学校ではなく日本の学校に通う。

 ソヒは部活で朝鮮舞踊に打ち込み、リーダーを任され大会での優勝を目指している。ある日、日本の学校に通う同学年の未来と出会い、K-POPが大好きということで仲良くなっていく。ふたりともBTSのファンクラブに入会し、ライブに行こうと約束する、だがお小遣いが決定的に足りなかった。そこでソヒは家にある不用品をフリマサイトで売ることに。びっくりする高値で売れたのは、父・サンジュが持っていた北朝鮮のCD。そうしたレアものならもっと高い値段がつくかもしれない。ソヒは父が北朝鮮から授与された勲章に手をつけようとする・・・。

 サンジュを演じるのは井浦新さん。東京の朝鮮学校の校長を務めている。朝鮮学校は拉致問題や弾道ミサイルの発射などの影響から、途方もないバッシングを受け、高校無償化や補助金の対象から外され、経営は困難を極める。校舎のトイレの修理が先延ばしになり、次年度小学部に入学する児童はゼロ。そんななか教職員の給与は日本の公務員の三分の一以下。サンジュの家では壊れた洗濯機を買い替えることもできない。

 ところでわたしが大学教員だった頃、ゼミには毎年のように在日の学生が入ってきた。卒論に済州・四三事件や朝鮮学校への差別を卒論のテーマにする日本人学生もいた。そんな中、朝鮮半島をルーツに持つ4年生がおばあちゃんの人生を映像作品に仕上げて卒業することを目指していた。その学生はゼミの発表会で、おばあちゃんは密航で日本にやってきたことがわかったと報告した。そのときのゼミ仲間の反応を今もはっきり覚えている。「それはすごい!」「どんな事情があったのか知りたい」「かっこいい」。みんなおばあちゃんの人生に何があったのかを本気で知りたがっていた。その学生も目を輝かせピカピカしていた。

 『トロフィー』の中で、ソヒの友人になった未来も、そんな気持ちだったのではないか。好奇心は時として相手を傷つけることがある。それでもたとえ摩擦が起きても、他者に関心を持ち、気遣い、ともに涙を流すことって青春時代の特権ではないだろうか。

 さて、勲章をめぐる物語はその後どう展開するのか。同じような勲章をやたら集めるコレクターに遭遇したり、未来の祖父は鋳物の職人であることから、本物そっくりのレプリカを作ってもらえないかと頼んだり・・・。映画は立派な勲章よりも、日々の暮らしや生身のひととひととのつながりの方がはるかに尊いことを教えてくれる。タイトルに『トロフィー』を選んだ理由は、トロフィーという物体がすごいのではなく、みんなで努力を積み重ねた時間の中にこそ価値があると言っている気がする。

 アップリンク吉祥寺は、この映画の巨大ポスターを壁いっぱい貼り、それ以外に展示コーナーまで作って応援している。映画が大ヒットし、朝鮮学校を高校無償化や補助金の対象から除外するなどという差別に終止符が打たれることを強く望む。