堀切さとみ(映像制作者)
レイバーネットに載っていた「韓国・民主化へのもうひとつの史実」という紹介文に惹かれ、ポレポレ東中野に観に行った。満席とはいえなかったが、若い世代も多かった。
小山帥人さん(元NHK大阪)と西村秀樹(元MBS)さんが共同監督をつとめ、事件から50年の昨秋、ついに完成させたドキュメンタリーだ。
主人公は二人の在日コリアン二世。大阪府生野区出身のカン・ジョンホンと、熊本県人吉市出身のイ・チョルの語りを中心に映画は進行する。
二人はそれぞれ日本で生まれ、日本の大学を卒業した後、韓国の大学に留学する。1970年代のことだ。そして、北のスパイだと容疑をかけられ、KCIAに逮捕された。同じように拘留された留学生は21人いて、韓国では11・22事件と言われている。

取り調べで朝鮮総連との関係を聞かれるが、まったく身に覚えがないカン・ジョンホン。大きな体に大きな目、笑顔が魅力的な人物だ。その彼が、水拷問、電気拷問、ありとあらゆる「原始的暴力」を受けて絶叫し、自分の悲鳴に驚いたと語る。
婚約者がいたイ・チョルは、スパイであることを認めなければ婚約者と義母をお前の目の前で犯すと言われる。性器にタバコの火をつけられ、舌を噛み切って自殺しようとするが、それもできなかった。
耐えがたい拷問の後には死刑判決が待っていた。
「大韓民国は反共を国是とする。だから生存を許すことはできない」
この判決文を聞いた時、カン・ジョンホンは「スイッチが入った」という。このまま黙って死ぬわけにはいかない。体力をつけるためにしっかり昼食をとり、最終陳述で「判決は不当だ」と発言したことで生きる力を沸き立たせる。
11・22事件は朴正煕による独裁政権下、政権の安定を保つためにでっちあげられた、留学生への弾圧だった。
当時、韓国への留学生は400名ほどいたそうだが、なぜ彼らがスパイ容疑をかけられたのかといえば、おそらく自由な言論をする若者だったからだろう。
光州事件の五年前のことだ。韓国内では「死刑囚」に味方をすれば拷問が待っているから、声をあげることはできなかったという。そのかわりに日本では、彼らの同級生や家族が中心になって、救援運動が巻き起こった。

国家の安定を脅かす存在というのは、何か事件を起こす人なのではなく、自由に考えることのできる人、一人の人間として立つ者のことをいうのだろう。「共産主義者」「非国民」という意味さえ知らなかったりするのだろう。
絞首台から生還し、無罪をかち取った二人は70代。過酷な拷問と恐怖を体験したとは思えないほど、若々しくて眩しい。歴史の証言者は、今を生きていると思った。
今年の5月から関西、九州を中心に単館上映されている。ポレポレ東中野での上映は10月16日。世代を超えて多くの人に観てほしい。
★『絞首台からの生還』公式サイト(上映スケジュール)はこちら⇒https://www.19751122movie.com


