小野政美(わだつみ会・日本戦没学生記念会)

(1)本日、6月27日、12時36分、衆院内閣委員会で、「国旗の損壊等の処罰に関する法律案(衆法第18号)」(以下、「国旗損壊罪法案」)が、賛成多数で採決されました。自民・維新・国民民主・参政の4党が共同提出した「国旗損壊罪法案」は、国旗を公然と傷つけた場合などに、2年以下の拘禁、または20万円以下の罰金を科すとしています。国民民主党の要求で、損壊する映像を事後にSNSで配信する行為を処罰する規定は削除されましたが、ライブ配信は処罰の対象になります。国旗損壊罪の創設は、高市早苗首相が持論としてきた法案でした。

 本日の審議においても、4党の共同提案者は、法制定の根拠となる「立法事実」について、十分に存在しているとし、実際の被害がなくても、国旗を侮辱的に扱う行為が国民感情などに与ええる影響は大きく、自国の国旗は守らないことに是正が必要である、器物損壊罪が他人の物にしか適用されず本人所有の国旗損壊を処罰できないので、刑法上の「外国の国旗損壊罪」とのバランスが必要であり、そのためには、「日本国旗損壊罪法」が必要であると改めて主張しました。

 さらに、「立法事実」は、沖縄国体での「日の丸」焼却事件、富山大学学生事件など4件の国旗損壊の実例も根拠になると説明し、諸外国での「国旗損壊」の事例から「予防的立法事実」があるとの答弁を繰り返し、また、「保護法益」に関しては、「国旗損壊罪法案」が、「国旗・日の丸」を損壊することは、「国民感情」を損壊し、「国家の威信と名誉」を傷つけるものだとの主張を繰り返しました。

 3日間の短期間の衆院・内閣委員会の審議を通じて、法案提出4党議員の意見は、犯罪構成要件や明確性についても、客観的判断の明確な基準は示されませんでした。「著しく不快または嫌悪の情を催させる方法」で、公然と国旗を損壊、除去、汚損する行為を処罰する、「意図や目的は問わず、行為の外形や状況を総合的に勘案して判断する」と定めた「国旗損壊罪法案」について、具体的な根拠を挙げた説明をすることなく、抽象的な意見を述べるのみでした。

(2)「国旗損壊罪法案」が成立すれば、当局の意向でどのようにも使うことが出来、思想・良心の自由の統制、表現の自由の侵害、市民の自由と人権の弾圧の手段になります。「国旗損壊罪法案」は、愛国心の強制が真の動機でもあると考えられます。教育現場の式典での国旗掲揚と国歌斉唱の強制を見ても、積極的な妨害行為とはいえない消極的な不同調までが懲戒の対象となっていて、日本国憲法に反するものです。

 憲法13条「幸福追求権」や憲法19条「思想・良心の自由」、その他多くの人権規定は、共通原理になっているものであり、それを表明することは憲法21条によって個人の自由です。また、人権保障の大原則である罪刑法定主義は、刑罰を法で定めることだけを意味するのではなく、処罰の対象になる行為を明確に定めることが不可欠です。

(3)昨日、6月25日の「国旗損壊処罰法案」の参考人質疑でも、参考人からは、処罰範囲が不明確で、表現の自由を侵害し萎縮させる危険や違憲性が指摘されました。志田陽子教授(武蔵野美術大・憲法学・芸術関連法学)は、「現在の案では将来憲法訴訟になった時に違憲と判断される可能性が非常に高い」、「憲法21条は表現の自由を広く保障しており、人に不快感を与える表現があっても法による介入や規制はしないのが原則」、「法案では表現が広く取り調べの対象となり得る上、憲法19条の「思想・良心の自由」に警察が踏み込む問題が生じる」と批判しました。

 志田陽子教授が言われるように、「表現の自由」など重要な自由権を制約する法律については、「その規制がどうしても必要」(compelling)といえる場合、かつ、「その必要性(目的)に見合う最小限の規制に限り合憲」で、「そのような厳しい規制方法を採らなくても、他にもっと人権制約の度合いの少ない代替手段があるならば、そちらを採るべきだから違憲」(Less Restrictive Alternatives:LRAの原則)というのが、憲法学でおおむね共有されている考え方です。また、刑事罰という最も重い規制手段を採ることについても、その手段でなければならないのかと問わなくてはならないものであり、つまり、規制する具体的必要のある事柄はすでに現行法で対処が可能です。

 また、昨日の参考意見で、江藤隆之教授(桃山学院大学・刑法学)は「廃案にすることも含む、より慎重な議論が求められる」、「法案では自己所有の国旗の損壊も処罰されるが立法事実の説明が不十分で、国旗国歌法が定める国旗の形式以外の「国旗のようなもの」の損壊まで処罰される」、「処罰対象が不明確で罪刑法定主義上の問題があると批判しました。

(4)国家の権威を象徴する国旗をあえて燃やしたり、破ったりすることは、それ自体が国家や政府に対する強い異議を表現する行為です。表現の意図や目的を問わなくても、乱用を防ぐための厳格な縛りもなく、処罰の対象とすることそのものが内心の自由を圧迫し、政治的な意見の表明を封じることにつながるものです。

 内心の自由を圧迫し、政治的な意見や芸術的な表現の表明に対して刑罰を科すことは、国家による最も強力な権力の行使になるものです。「国旗損壊罪法案」の趣旨説明のように、不快感や嫌悪感といった主観による処罰を可能にするならば、思想・良心の自由、言論・表現の自由への抑圧は大きく広がっていくことになります。不快感や嫌悪感を処罰の理由にした上で「総合的に勘案して判断する」というのでは、およそ刑罰法規としての明確性を欠くものであり、「国旗損壊罪法案」は、刑罰で、日本国憲法の保障する思想・良心の自由、表現の自由を侵害し、信条による差別を禁止している憲法14条違反、憲法31条が定める罪刑法定主義に反する違憲立法です。

 また、「国旗損壊罪法案」は、表現の自由に関して国民の委縮効果があり、監視・通報などにより表現を控えることになります。

(5)本日の衆院・内閣委員会の法案採決により、早ければ、6月30日(火曜日)か7月2日(木曜日)には、衆院本会議での審議・採決を強行し、その後、参院院・内閣委員会で審議・採決が行われ、「国旗損壊罪法案」は、7月17日の国会会期末までに今国会で成立することになります。

(6)来週、6月30日(火曜日)か7月2日(木曜日)に行われる可能性のある衆院本会議での審議・採決強行に注目し、多くの人々が、衆院本会議の審議を監視し、法案に抗議することによって、「国旗損壊罪法案」の廃案を実現するために小さな声を集めて、大きく声を上げ続けることが必要だと思います。全国各地で、さまざまな立場から抗議の声を上げましょう!