2026年8月25日 ルイス・フェリス・レオン/ジェーン・スロータ

【解説:現在、全米自動車労組UAWの本部役員選挙が実施されている。一か月半にわたる厳しい選挙戦の内実を伝える記事がレイバーノーツ誌9月号に掲載されたので翻訳した。この選挙は前回2023年に続いて全組合員の一票投票により行われているが、それ以前は大会代議員による間接選挙であった。UAWのような産業別の大労組の役員選挙が100万人の組合員の直接選挙で行われている意義は大きい。しかも、その100万人の組合員の内の60万人が退職者であり、また現役組合員の40万人の内10万人は大学で働く院生やオーバードクたちである。そのことが今回の役員選挙にどう影響するか、注目したい。レイバーネット国際部 山崎精一】

6月のUAW大会で役員選挙立候補者の演説に聴き入る代議員たち。他労組では必要な推薦人制度はなく、全組合員に立候補資格がある。
 

 全米自動車労組(UAW)の組合員は、その91年の歴史の中で2回目となるトップ役員選出のための郵送投票を行っている。投票用紙は8月21日に発送され、10月5日に投票が締め切られる予定である。

 今回の選挙では、2023年に自動車大手3社(ビッグスリー)に対して行われた同時ストライキを率いて一躍有名になったショーン・フェイン会長が、これまでの労使協調路線からの転換を継続できるかどうかが決定される。

 アメリカ最大の自動車工場、フォード・カンザスシティ工場で働き、UAWローカル249の組合員であるウィリアム・ヒューズは、今回の選挙では、組合員のために利益を獲得してきているUAWの勢いを維持できるかが問われている、と語る。「UAWで27年組合員しているが、労働協約でこれほどの成果を勝ち取ったのは初めてです。」とヒューズは述べる。「フォードに来る前はシートの製造をしていましたが、部品部門がこれらの工場でストライキを起こし、これほど大規模な労働協約を追求しようとしたことなど記憶にありません」。

 フェイン会長は2023年、「腐敗なし、二層賃金なし、譲歩なし」を公約に掲げて初当選した。彼はビッグスリーやその他の労働協約闘争の成功という実績と、部品サプライヤーや南部の未組織の自動車工場の組織化を継続するという約束を掲げて会長選挙に出馬している。

 フェインの対立候補者たちは過去3年間の彼の成果を過小評価し、誰でも獲得できたはずだと主張している。代わりに対立候補たちは、組合本部での内紛や、連邦監察官ニール・バロフスキーによる厳しい報告書を取り上げ追及している。バロフスキーはUAWの旧指導部の大規模な腐敗が発覚して、多数の役員が刑務所に収監された後にUAWを監視するため2021年に任命されている。

新たな笑顔

 フェイン会長の最も強力な支持基盤は、経営側と闘うという新たな体験をしたローカル(支部)の組合員たちである。

 その一人、ジョアンナ・マクレナサンはコネチカット州のジェネラル・ダイナミクス・エレクトリック・ボート社のシニアデザイナーであり、フェインを支持する改革ネットワーク「UAW組合員アクション」の運営委員でもある。団体交渉を組合員に開放し、交渉戦略部を新しく立ち上げて30%の賃上げを伴う記録的な協約を獲得するのに貢献したことで、彼女はフェインを高く評価している。フェインが交渉戦略部を作ったのは、企業を調査し、協約交渉に組合員を関与させるためであった。「昨年の交渉闘争の際、フェイン会長がローカルにやってきて私たちと会ってくれました。彼がいたからこそ、ローカルはあれだけの資財を得ることができたのです」と彼女は語る。

 「私たち1980年代から基本的に密室で交渉してきました。長い間、ローカルの多くの人々が無力感を抱いていました。『会社が提示してきたのだから、批准投票で賛成するしかない』と。しかし昨年、一般組合員は自らの声を上げ、より主体的に参加するようになりました。それは新しい戦略のおかげです」

 同様に、ミシガン州スリーリバーズにある自動車部品サプライヤーのアメリカン・アクセル社でも、6月に行われた2週間のストライキの結果に組合員は満足している。そこの最高時給は22ドルから2030年までに30ドルに上がることになっている。

 「駐車場に変化が見られ始めています」と交渉委員のジョン・クラウズは語る。「組合員たちは通勤用の車を買えるようになりました。マイホームの購入を検討し始めた人もいます。ここ何年も見たことがなかったような人たちの笑顔が見られるようになりました」

 スリーリバーズの組合員はフェインが率いる「ユナイテッドUAW」コーカス(注)の候補者名簿に投票すると、クラウズは予測している。

 UAWローカル2325の組合員である法律担当の労働者のブライアン・サリバンは、自動車労働者も産業全体での協約交渉を目指していると語る。自動車メーカーに対してフェインが産業全体の戦略を提起していることに刺激を受けたと述べる。「私たちは、会社に対して大きな挑戦をする際にバックアップしてくれるUAWの指導部を望んでいます」。

5人の対立候補

 フェインに対立する5人の候補者は、7月30日に行われた組合の討論会の大部分を彼への攻撃に費やした。5人の対立候補は、ステランティス部門副会長のリッチ・ボイヤー、本部サービス代表のトリシア・ガイガー、ステランティス労働者のブライアン・ケラー、マック・トラック労働者のウィル・レーマン、そしてローカル2147の財務書記長であるグレッグ・ムーニーである。

 挑戦者のうち、ボイヤーとケラーが最も高い知名度を持っている。ケラーは2022年の選挙で14%の得票を獲得し、昨年はフェインのリコール運動を主導したが、失敗に終わっている。彼は今春の自身のローカル1248の代議員選挙で5人中4位であった。

 ボイヤーは前回の選挙でフェインと同じ陣営から出馬したが、今回はフェインに反対して別の「イテグリテイー」候補者名簿から立候補している。副会長のマイク・ブースや財務書記長のマーガレット・モックも一緒に立候補している。インテグリティーとフェインとの対立は、連邦監察官による長い報告書で取り上げられている。

 フェインがボイヤーを批判しているのは、ステランティスでの労働協約を履行しなかった点、組合員から不評だった新しい勤怠プログラムを受け入れた責任がある点、さらには自分の家族のためにUAWの役職を確保しようとした(かつてのUAWでは一般的な慣行だった)点である。

 ボイヤーは一貫して、会社の勤怠方針を実行するのが組合の仕事であると主張している。2023年の協約批准に関する組合員へのビデオメッセージの中で、彼は「働きたくない」労働者による病気休暇の濫用を嘆き、組合が勤怠改善を支援しなければ工場が閉鎖されることを示唆していた。

 UAWの執行委員会は、ボイヤーとモック(彼女も家族を雇用しようとしていた)の一部の業務を解任することを決定した。フェインとその他の執行委員は、モックが自身の役職を利用して組合活動を妨害し、気に入らないスタッフに報復していると主張している。

 連邦監察官はボイヤーとモックの解任を「報復」と認め、両名は役職復帰した。これに先立ち、監察官はフェイン会長に電話し、2023年12月にUAW執行委員会が呼びかけたガザ地区での停戦要請に反対するよう働きかけていた。フェインは反対することを断固として拒否し、それ以来監察官が自分に嫌がらせをしていると非難している。ロフスキーはフェイン会長が婚約者とその妹のために便宜を図ったと主張している。

 「ボイヤーに関する真実は、彼が組合員のために良い仕事をしておらず、ステランティス部門を任せたくなかったということです」とフェインはネーション誌に語っている。「私は彼が親族をUAWの役職に採用するのを許さず、ステランティスと譲歩的な交渉をし、協約を執行しなかったのを放置しなかっただけです」

 ボイヤーの支持者は、彼が率直で闘士であると語っている。UAWの機関誌に掲載された彼の主な公約は、組合費を月2時間分の時給額に引き下げること、組合本部の職員と給与を削減すること、そして組合員内部からのみ採用することである。今夏のUAW大会では、ストライキ基金を積み立て、積極的な組織化と交渉キャンペーンの資金を確保するため、組合費を2.5時間分の時給額を維持することが議決されている。

 互いの醜い非難合戦により、組合員の間に冷めた見方が広がりつつあり、2023年以前のような状態になってきている。フェインの対立候補らは主に指導部内の「内紛」に焦点を当てている。「私はフェイン会長の人への接し方が好きではありません」と、デトロイト近郊のローカル1700の財務書記長でボイヤーを支持するジェニファー・ミラーは語る。「彼の高慢さが気に入りません。彼がやったと言っていることすべてが彼の功績だとは思いません」

 前回の選挙で、当時現職のレイ・カリー会長と戦ったフェインは、長年の譲歩や工場閉鎖、組合上層部の腐敗に対する不満から生じた強力な現職批判の風潮の恩恵を受けた。しかし今回、その利点は見込めない。

 トレドにあるステランティス社のジープ工場で機械整備工を務めるJJ・バルボーサは、フェィスブックで精力的に発信しているケラーをこれまでの3回の役員選挙すべてで支持してきた。彼はケラーを粘り強くブレない人物と見ており、「二層賃金の格差がまだ存在することに嫌悪感を抱いている」と述べている。彼は現職全員が「身内びいきと親族登用」を行っていると批判している。

勢い

 UAW中の組合員にインタビューすると、フェインが各ローカルに足を運んで組合員と話をし、協約更改闘争を支援したことに感銘を受けたという組合員の声をよく耳にした。

 ニューヨーク州バッファローにあるゼネラル・モーターズ(GM)社のエンジン工場で27年働くカルロス・ゴンザレス=リオスは、フェインに2度会ったことがあると言う。彼は、25%の賃上げなど、自分が目にした成果をいくつか挙げた。「生計費調整(COLA)が戻ってきました」と言う。「5年も6年も臨時雇用のまま放置されることがなくなりました」。彼はまた、テネシー州のフォルクスワーゲン工場でのUAWの勝利にも言及した。ここでは労働者がUAWへの加入に投票し、今年前半に初の労働協約を獲得した。これは南部で外国資本の自動車組み立て工場が初めて組合化した例となった。

 今回の選挙で問われているのは、この勢いが続くかどうかだとゴンザレス=リオスは主張する。「実績があり、今ある成果をもたらしてくれたリーダーシップを持つ人物についていきたい。そして、私たちはまだ取り組むべき課題を抱えています。GMを退職した後でも退職者全員の医療保険を獲得したいのです」

 「私は他の人たちの責任を追及してきましたが、それによって一部の人々を怒らせてしまったことは理解しています」とフェインは会長選挙討論会で語った。「しかし『監察官がどう言ったこう言った』というような選挙公約で立候補しても、組合員に成果をもたらすことはできません」

変わりゆく同盟関係

 UAWの40万人の現役組合員と約60万人の退職組合員は、全部で14人の本部役員を選出することになる。その内の13のポストに立候補しているフェインのユナイテッドUAW陣営には、前回の選挙で戦った管理コーカス(Administration Caucus)のメンバーが含まれている。このコーカスは1940年代からUAWを牛耳り、ここ数十年で何度も経営側に譲歩を重ねてきた。その中には、フェインの力強い手法がもたらした労働協約の成果に感銘して説得された者もいれば、権力のある側につこうとしているだけの者もいるかもしれない。

 8月初旬、レイ・カリー、ローリー・ギャンブル、ロン・ゲッテルフィンガーという3人の元UAW会長が、ガイガーやモック、その他のフェインの対立候補物を支援する書簡を発表し、古い支配コーカスを復活させようと試みた。フェインはすぐに反論し、ゲッテルフィンガーが2007年に行った「売り渡し協約」によって新入従業員の賃金が半減し、二重賃金制度が作り出されたことを組合員に思い出させた。

 フェイン陣営の4人の地域ディレクター(第1A地域のマレー・デパオリ、第6地域のマイク・ミラー、第8地域のティム・スミス氏、第9A地域のブランドン・マンシーラ)は無投票で当選が決まっている。残りの5つの地域ディレクター枠、3つの副会長枠、そして財務書記長役の枠も争われている。

 候補者が決選投票を避けるには過半数の得票が必要であり、投票結果は10月6日に集計される。

注)コーカスとは組合内部に組合員が自主的に作る任意組織であり、日本の組合でいえば派閥に当たる。しかし、その地位は全く派閥とは異なるもので、組合内部の結社の自由と言論の自由を保障するために法律によりその存在が認められている。