
<竪場勝司>
「戦争する国に抗い 平和と民主主義の日本をめざして」をテーマにした、元文部科学事務次官の前川喜平さん(写真右)と新外交イニシアティブ代表の猿田佐世さん(左)の講演と対談が9月24日、東京都足立区の東京芸術センター「天空劇場」であり、日本の外交の在り方などについて議論が交わされた。
市民社会などによる外交を進め、日中関係の改善を
東京都民医連東部東葛ブロックと千住九条の会が共催した。対談の前に、登壇者の2人が短い講演を行なった。
猿田さんは講演で、日本のある新聞の世論調査で「アメリカをあなたは信じますか」との質問に、「信じる」と回答した人が11%しかいなかったことに触れた。安全保障について日本の世論は、A(政府がずっととってきた方針で、日米同盟を強化する)、B1(アメリカ離れをし、日本独自の防衛力を強化する)、B2(アメリカ離れをし、軍事力強化ではなく、外交に注力する)の3つに大きく分かれる、との見方を示した。
また外交には、政府が行なうトラック1、地方自治体や議員などによるトラック2、市民社会や経済界などのトラック3があることを紹介。高市首相の発言によって日中関係が最悪の状態にあると言われる中でも、日中は経済の関係が強く、日本企業が3万点以上の拠点を中国に置いていることに言及した。トラック2や3の外交を進め、「日本が中国にとって不可欠の存在になっていく」ことの必要性を強調した。


前川さんは講演で、「中国がいつ攻めてくるか、わからない」といった根拠のない言説や、外国人に不満のはけ口を持って行く排外主義が横行し、ソーシャルメディアがその手段として使われている、日本の現状に懸念を示した。また「メディアと教育は、権力を握る人たちが戦争の方へ悪用しようと思えば、かなりたやすくできてしまう。今、1930年代のようなことを繰り返す危険性が高まっている」と述べ、メディアと教育をしっかりしたものにしていく重要性を訴えた。
みごとなタイの全方位外交
対談の中で前川さんは「アメリカ抜きで新しい国際秩序をつくる動きが出てきている」と指摘したうえで、「その中で日本がどう振る舞うと考えるか」と問いかけた。猿田さんは「アメリカとの関係を絶対視せずに、総体化していくという点で、私が日本の一番のお手本になるのは、タイだ」と回答。タイは1970年代まではアメリカの堂々たる拠点で、たくさんの米軍基地があったが、その後、民主化が進むなどして、米軍基地を追い出した。だが、今日でも米・タイ同盟は続いている。タイは中国との経済関係も深く、猿田さんは「みごとな全方位外交をやっている」と高く評価した。
外交に関して、猿田さんはある国際会議の夕食の席で、中国の著名なジャーナリストから「日本は侵略戦争を反省していない」などと厳しく責められた体験を紹介。猿田さんが「本当にそうだね」といって謝ったところ、ジャーナリストは「本当にそう思っている人がいるんだ。中国政府もやり過ぎているよね」と態度が一変し、翌日には「今後は一緒に日中関係について考えていこう」とメールが届いたという。猿田さんはこうした対話や、身近な人たちへの訴えかけの重要性を指摘した。
政権のいいなりになる人間しか出世できない、中央官僚
対談では、中央官僚の在り方についても議論があった。事務次官まで務め、「面従腹背」の姿勢を貫いた前川さんは「私は仮面をかぶって、38年間、文科省で仕事をしてきた。『右向け右』と言われたら、右を向くのだが、60度くらいで止めておいて、相手が様子を見ている間に、少しずつ戻していくといった形で」と振り返った。
中央官庁の状況について、前川さんは「政権のいいなりになる人間しか出世できない。安倍政権の8年間でそうなってしまった。官僚の人事には自律性があったが、『政治主導』ということになってからは、政権に近い考え方の人が、多く信頼を得るようになっていった」と現状を憂いた。


