第108回・2026年10月13日 掲載 

バスティーユ広場 10月8日

 まともな教育環境と機会の平等を求めて、9月後半にパリ郊外の高校で始まったフランスの高校生運動は、またたく間に全国に広がり、9月末からは大学にも波及した。政府は彼らの要求を聞いて対処しようとする態度を見せず、平和的な学校封鎖を行っていた高校に大勢の警官や機動隊を送った。ごく一部の暴力や破壊行為を口実に、治安部隊は催涙ガスや閃光音響弾、ゴム弾銃などを濫用し、暴行を受けたり重傷を負ったりなど、未成年に対する前代未聞の弾圧が行われた。一方、教職員、父母組合、労組や急進左翼政党「服従しないフランスLFI 」は、正当な要求を掲げる高校生運動を直ちに支持した。大人たちは警察による過度で不当な弾圧に抗議して、運動の現場に赴いて高校生を治安部隊から防護する役割を担った。劣悪な教育環境と不平等に対する抗議から突然始まった高校生運動は、大勢の市民の連帯を引き起こしたのだ。(コラム108 フランス高校生運動のダイナミズム https://labornetjp2.org/news/261005pari/)

歴史を刻む高校生運動

 10月6日火曜、フランスの若者たちは大勢路上に繰り出した。高校生組合と大学生組合の呼びかけに労組、市民団体、左翼政党などが賛同し、主催者発表で全国45万人、パリ10万人(警察発表:全国256 000、パリ56 000)の大規模な動員である。パリのレピュブリック広場からナシオン広場までは定番の行進コースだが、 この日ほどの巨大デモは珍しく、圧倒的な数の若者の熱気で溢れていた。

10月6日デモ「自分たちのゴミはリサイクルして、大臣に起用するな」

 教育は権利だ、自分たちの未来を保障する教育と環境を提供せよという高校生たちの正当な要求に対し、10月2日に初めて高校生組合と面談した教育大臣は、具体的な対策を何も示さなかった。高校生運動を支持し、同様の要求を掲げて90%の大学が総会、封鎖など運動に加わった。しかし、10月5日にはパリのソルボンヌ・ヌーヴェル(旧第3)大学に機動隊が入り、閉鎖された。大学はヨーロッパで創始された12世紀末〜13世紀初め以来、歴史的に権力からの独立を誇る機関なので、大学に機動隊をよび入れる行為は学生だけでなく多くの人に衝撃を与えた。前回のコラムで言及した3つの大規模な学生運動(1968年5月革命、1986年ドヴァケ法案反対運動、2006年CPE反対闘争)では例外的に機動隊が出動した。マクロン政権下では、2018年のキャンパス封鎖に対して機動隊が大学や高等教育機関に送られて以後、パレスチナ支援のアピールなど平和的な状況でも、大学への治安部隊の出動が頻繁に行われるようになった。大学生に対しても稀だった機動隊の動員(と暴力)を高校生に対して行使したのは、この政府が初めてである。

 しかし、そんなひどい弾圧を受けながらも、政府に要求を聞き入れさせようと運動を続ける高校生たちの意気は旺盛で、ユーモアに溢れる様々なプラカードを掲げて元気に歩いた。「生徒35人に対して教師は1人、生徒1人に対して機動隊員5人」「要求を聞くには若すぎるが、催涙ガスを浴びせる時は大人扱い」「自分たちのゴミはリサイクルして、大臣に起用するな」「バディー(いい女)は政治に目覚めている」「ゴミ箱か森のどちらを火事から守るか、政府は選んだ」等々、若者たちのユーモアのセンスはすばらしい。そして、「ジェノサイドではなくて私たちの未来に出資しなさい」「自由と平等は特権者たちだけのもの」「平等は郊外の門を越えてもなくならない」「ほら、私たちが前進する共和国(マクロン党の最初の名前)」「私たちの68年5月革命」「各自が自分の仲間を擁護する:左派は高校生、右派はゴミ箱」など、彼らのしっかりした政治意識が表れている。

「生徒35人に対して教師は1人、生徒1人に対して機動隊員5人」(10月6日デモ)

 デモ中によく叫ばれたシュプレヒコールにも、「私たちはみんな反ファシスト」(最初にこのアピールが始まったイタリア語で)、警察の暴力を敵視する「みんな警察が大嫌い」「アカーブACAB(All Cops are bastards)」や、「若者には国民戦線(国民連合)なんて糞食らえだ!」など、極右・ファシスト、警察の暴力を糾弾するものが目立つ。国民戦線糾弾の句は1985年のパンク・ロック・グループの曲の歌詞で、まず1988年総選挙で国民戦線が躍進した後に有名になり、2002年の大統領選でジャン=マリ・ルペンが決勝戦に進んだ際にはとりわけ、大勢の若者が叫んだ。そして、2024年6月の欧州議会選挙で国民連合が大勝し、続く総選挙で極右の政権掌握を全ての世論調査と主要メディアが予想した際、若者たちは「極右を通すな」と再びこの句を叫び始めた。忘れっぽい大人たちに比べて、若者は闘いの精神と歴史を敏感にキャッチし、継承しているのである。
(https://www.youtube.com/watch?v=CuZB9hOQ0DQ)

 若者たちを警察の不当な暴力から守るために、教員や労組、父母など大人たちは彼らが歩く脇の歩道で治安係を務めたり、ナシオン広場近くで機動隊が催涙弾を投げ始めた時には、前列に出て暴力がエスカレートするのを防ごうとした。他のデモでもそうだが、機動隊が遠くにいるときは全く問題は起きず、破壊行為もない。治安部隊の側が暴力を焚きつける様子、警官が「暴徒」に変装して混乱をもたらす様子などが、独立ジャーナリストや市民のビデオでSNSに公開されている。10月8日のバスティーユでの集会では、平和的な集会なのに、議員が広場を去ったあとに治安部隊はメトロの出口を全部閉鎖し、12以上の広場に達する道全てを2箇所を除いて封鎖し、少人数ずつ外に出させるケトリング(閉じ込め)を行った。広場に残った大勢の人々に対して催涙弾が発射され、若者に対する暴行も行われた。

 今回の高校生たちの封鎖やデモで興味深いのは、フランス国歌ラ・マルセイエーズを若い彼らが歌い、パレスチナ国旗よりは少ないがフランスの三色旗を掲げたり纏ったりする者もいることだ。国旗・国歌は日本の場合は天皇制と侵略戦争のせいで左派には受け入れられないが、フランスの場合は大革命と共に生まれたため、革命と共和国の象徴である。それは、移民系も多く含む若者たちにとって、「ここは自分たちの国だ、自分たちは自由・平等・友愛の共和国の市民だ」という表現なのだ。彼らは「ヌーヴェル・フランス」の市民である。

10月6日 デモ

 その意味で、10月6日のレピュブリック(共和国)広場からのデモに続く10月8日の集会で、1789年7月14日にフランス大革命が勃発したバスティーユ広場を埋め尽くした若者たちの姿は感動的だった。中央にそびえる7月革命(1830年)記念柱によじ登った者たちは、プラカードや旗を掲げた。「バスティーユが再び奪取された!」と思わず感じた人も多かっただろう。フランス国旗を纏った女の子と、パレスチナ国旗を纏った男の子が並ぶ後ろ姿も印象的だった。この高校生運動はフランスの歴史を刻んでいるのだ。

未成年に対する前代未聞の弾圧

 高校生運動に対する警官・機動隊による過度の暴力の映像は、フランス国外のメディアの方がちゃんと報道した。しかし、内務省発表の数字を見るだけで、いかに異常な事態かがわかる。10月9日の発表によると、逮捕・拘留数6877(うち未成年が86%) 、うち起訴数2376(未成年1923)、高校生の負傷者215人、教職員負傷者89人。逮捕された高校生が警察署で暴行を受けたり、差別的な罵詈雑言を浴びたりして、トラウマになったことが伝えられている。10日間強の運動で6000人近くの未成年が拘留されたのは衝撃的だ。1968年5月革命時の逮捕数は700、うち未成年の拘留は95人。1986年のドヴァケ法案反対運動での拘留数は150、1994年のCIP反対運動での拘留数250、2005年の郊外の反抗では拘留数4500(未成年950)、2006年CPE反対闘争での拘留数1920、2016年労働法反対運動での拘留数890人、2018年-19年「黄色いベスト運動」では1年間に拘留数1万強、2023年年金改革反対運動の拘留数3189、2023年夏ナエル殺害後の反抗での拘留数3625。 

10月8日 バスティーユの奪取

 こうして比べると、郊外の反抗運動に対して常に、若者への激しい弾圧が行われたと言えるだろう。郊外の反抗では車や設備、建物が大量に燃やされたり破壊されたりしたが、今回の高校生運動は平和的で破壊は少ないのだから、法外な数の逮捕・拘留が行われたことがわかる。また、マクロン政権になって黄色いベスト運動以降、逮捕・拘留がますます濫用されるようになったことも顕著である。

 不当逮捕・拘留と共に、戦場で使う危険な武器が市街地で行われる市民のデモの「治安維持」に使われることも、他のヨーロッパ諸国にはないフランスの特徴(汚点)だ。14、15、16歳の子どもがゴム弾銃LBD、「包囲解除」手榴弾GM2L、閃光音響手榴弾(flashbang)などで、一生障害を抱える重傷を負ったケースさえあるのだ(少なくとも4人)。LFIの議員たちは国会で、この異常な弾圧と危険な武器使用について、ニュニエス内務大臣とルコルニュ首相を厳しく追及した。内務大臣は「自制の必要なし、使える武器全てを使用せよ」と指示を出しており、追及を受けても「秩序保持は適切(過度でない)で被害はそれほどない」と発言する。これら重大な負傷など(女生徒や女教員に対する性暴力も指摘されている)について、国家警察総監査局IGPNは24件を調査中だが、子どもの親の訴えで司法の予審調査が始まったケースもある。

10月8日 バスティーユ

 LFIなど左翼政党はこれら危険な武器や「首絞め技」など危険なテクニックの使用を禁止するように求めており、市民団体ATTACは国会の署名サイトで署名を始め、すでに10万以上集まった。国内の人権団体、司法官団体、弁護士団体も警察による暴力に抗議する声明を出し、国連の人権高等弁務官やユニセフも懸念を発表している。それでもなお、内務大臣は手榴弾の発射機使用の「調査期間中の停止」を決めただけで、その後も新たな負傷者が出ている。その上ニュニエスは、被害者に対して「謝らない」と述べる厚顔無恥ぶりだ。

 高校生運動がパリ郊外から始まったのを見たルコルニュ政府(マクロン政権)は、最初から暴力的な行動だと決めつけ、機動隊や、暴力的なことで有名な特別部隊BACを高校に送った。そこには前回のコラムでも書いたように、移民系が多い郊外の若者たちに対する彼らの差別主義と植民地主義が表れているだろう。未成年の彼らを同じ人間としてみなさず、ひどい負傷を負わせても平気なニュニエス内務大臣、ジュフレ教育大臣、ルコルニュ首相、マクロン大統領は、その不当で非人間的な政治の責任をとって全員辞職すべきだろう(普通の民主国家だったら、かつてのフランスでも前例があるように、とっくに辞任しているはずなのに)。

不平等を是正し、子どもを尊重する教育をとり戻す

 教員、看護師、心理士など教育スタッフの不足の原因は、教育の民主化による生徒数の増加に教育予算が対応してこなかった、歴代政府の緊縮政策にある。長年、公務員の給料凍結も続いたため、教員の給料は最低賃金に近づき、教職志望者の減少につながっている。校舎や設備の劣化については管轄の地域圏によって状況が異なるが、国から地方自治体への支給金が減り続ける中、イルドフランス(パリと近郊県)のように保守の地域圏議会が私立高校を優遇し、公教育のとりわけ貧しい県の高校の助成金を減額したために、格差が開いたところもある。

若者に囲まれたメランションとボイヤール議員

 しかし、全国に共通の不平等と高校生の精神的苦痛の問題は、マクロン政権の高校改革によって著しく悪化した。それは、現実には程遠い理想であったにしても「万民に平等な教育」というフランス公教育の理念を覆し、競争と自己責任を強化するネオリベラル思考にもとづいた改革だった。これまでの共通試験バカロレア(大学入試資格)のコースを解体した「選択」システム、内申の重視、進学選抜システム「パルクールシュップ」の導入によって、学校どうし、生徒どうしの競争が強化され、登校時間は8時〜18時に延長され、生徒の不安は増大した。

 大学の入試試験を導入しない代わりに考えられたこの複雑なシステムで「勝ち組」になるためには、進路「希望」をバカロレア試験の3か月以上前から提出する最終学年だけでなく、ずっと以前から将来進みたい専門分野や学部、職業を想定し、それに有利になる選択科目と学校を選ぶなど、進路選択の戦略が必要とされる。「希望」は10まで提出できるが、バカロレアに合格しても毎年、一つも希望が叶わず行き場所がない生徒が続出する(今年は13万人近く。9月末にイルドフランス地方でまだ2000人の受け入れ場所がなかった)。経済的・文化的に進路戦略を展開できる裕福な層に対し、低所得層の子どもはますます不利な立場におかれる。それゆえ高校生組合と大学生組合は、パルクールシュップの撤廃を要求している。

 高校生たちの抗議は主に劣悪な教育環境から出発したが、彼らはたちまち不平等、多くの子どもの居心地の悪さや自殺願望などを引き起こす学校システム、知識を従順に吸収することだけを要請する社会などを批判するようになった。LFIの大統領選候補ジャン=リュック・メランションは、彼らの政治的な成熟さに敬意を表し、この運動が15年間続いたフランス公教育の破壊に終止符を打つ道を開くことを期待する。プログラム「共同の未来」では、文化や芸術、教育も何もかも「商品」に変えて企業の利益増大を求めるネオリベラル経済と決別して、全ての子ども・若者の平等と解放のための学校を再構築する政策を掲げているからだ。

 国会では2027年予算の討議が10月13日から始まる。ルコルニュ首相は教育費をさらに削減するつもりだったが(数字は増えてもインフレを計算すると前年より減る、教員ポストも1588削減)、運動が大規模に発展したため、高校生と大学生組合の要求(100億ユーロの増額)に対して10億ユーロ教育費を増額すると述べた。若者たちは10月13日、再び大規模なデモを呼びかけている。

 パリ郊外クレテイユの高校で勃発した最初の学校封鎖の時から現地に赴き、以後ずっと高校生運動を支持してきたLFIの議員たちとメランションは、現地でもデモ・集会でも若者たちに歓迎されている。一方、政府と多くのメディアはLFIが運動を焚きつけた、あるいは「政治利用」しているなど、相変わらずLFIに対して否定的で、若者側の暴力(破壊)に焦点をあて続けている。マクロン与党、保守、極右、主要メディアは、歴史的な運動が生まれて進展するのを唖然と、あるいは狼狽して見るだけで、高校生運動の内容と意味合いを理解できないようだ。

 多くの若者に囲まれて対話を交わし、国会に彼らをよんで話を聞くLFIの議員たちは、彼らの運動と「共生」していると言えるだろう。運動の主役である「ヌーヴェル・フランス」を体現する多くの若者は、未来を築く若い世代を信じて彼らに自立と平等をもたらすLFIの政策に、希望を感じるのではないだろうか。

 10月13日のデモのあと、18日から学校が2週間秋休みに入るので、政府は高校生運動が下火になることを期待しているようだ。しかし、10月17日には「黄色いベスト」が全国でアクションを呼びかけている。高校生運動と似て、黄色いベストは指導者や組織が不在の予測できない運動なので、この先どんな展開になるかは誰にもわからない。

  2026.10.13  飛幡祐規(たかはたゆうき)

*ヌーヴェル・フランスがつくる「共同の未来」(フランス大統領選について)連載
https://note.com/yukris/n/n15f8f5f72e27