<竪場勝司>
年末に予定されている安全保障関連3文書の見直しに関連して、原子力潜水艦を保有することを検討すべきだとの声が上がる中、日本の原潜保有について考えるシンポジウムが10月19日、東京・永田町の衆議院第一議員会館で開かれ、「国是である専守防衛を逸脱するものだ」、「莫大な費用がかかる」など、保有を疑問視する指摘が相次いだ。

1隻1兆円とも言われる莫大なコスト
自衛隊への原潜の導入をめぐっては、高市早苗首相が10月14日の衆院予算委員会で、安保3文書の見直しの議論の中で、議論の対象に含める考えを示した。また日本維新の会は6月に出した安全保障戦略に関する提言の中で、原潜の保有を強く打ち出していた。
シンポジウムは原子力資料情報室やピースボートなどでつくる実行委員会が主催した。
シンポではまず、原子力資料情報室の松久保肇・事務局長が「日本は原子力潜水艦を持つべきではない」のテーマで報告した。松久保氏は「持つべきではない」理由として、①広域展開や先制攻撃的な能力は、日本の国是である「専守防衛」を大きく逸脱する②1隻あたり約1兆円と言われる莫大なコストがかかる③日本は唯一の戦争被爆国として核廃絶をリードする責務を宣言し、原子力利用は平和利用に限定してきたが、原潜保有はその立場を自ら否定するもの、などを挙げた。

日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の和田征子さん(写真左)も登壇。日本被団協が結成時の70年前に「世界へのあいさつ」として発表した声明に触れ、最後の部分に「私たちはついに集まることができた。この集まりの熱量の中で、自分たちが復活したのではないか、というような気持ちを感じています。私たちの受難と復活が、新しい原子力時代に、人類の生命と幸福を守る砦として役立ちますならば、私たちは心から、生きていてよかったと喜ぶことができるでしょう」との文言があったことについて、「これを読んだ時から、なぜこんな文言をいれたのだろうと、本当に残念な思いがした」と語った。「被爆者は信じていたのだと思います。苦難と復活を経てここに至った。これで平和な世界をつくってほしいと思って、書いたのでしょう」と指摘。「1兆円もかかる原潜が、必要なはずはないです。これは平和利用のためとは言えない。それを強く言いたい」と訴えた。
核を使う以上、核被害は免れない
シンポの後半には松久保さんら5人が登壇してパネルディスカッションが行なわれた。佐藤丙午・拓殖大教授(国際政治学・安全保障)は「原子力潜水艦を持つかどうかは、最終的には政治の判断。これだけコストが高くなる選択であれば、どういうプロセスで政策を変更するのかを、政府の側が十分にすべきだ。原子力潜水艦を持つことがどれだけ戦略的に意義があることなのかについては、細かく説明していくことが必要だ。核不拡散体制を維持することは、日本の力ではほぼできない。そういう状況の中で我々として何が必要なのか、何を選択すべきなのかということは真剣に考えるべきだ」などと語った。
ピースボート共同代表の畠山澄子さんは「相手の受け止め方も重要で、自分には防御でであっても、相手にとって攻撃と映るのであれば、軍拡で応じてくるかもしれない。得られる能力だけでなくて、それによって生まれる危険まで考えて初めて、安全保障の議論になる。議論のうえで、日本が歴史的にコミットしてきた価値や原則への照らし合わせが必要だ。問題は原潜を何に使うのかであって、今回は長射程ミサイルを搭載する潜水艦を広い海域で長期間運用する構想と結びついている。こうした構想は専守防衛を逸脱するものだ。原潜は造って終わりというものではなく、国の予算や人材を長く拘束する選択肢だということは、忘れてはいけない。核を使う以上、核被害は免れない」などと指摘した。

