<2026年11月4日>
外務省の紀谷昌彦・沖縄特命全権大使は2026年11月4日、「知事就任に伴うご挨拶」のため古謝玄太知事を沖縄県庁にたずねた。面談は冒頭だけの公開で5分で報道陣は退室をもとめられた。紀谷氏は最初に「米軍の駐留」に理解と協力をもとめた。

紀谷氏が約束の2分まえに県庁第一応接室に入ってきたとき、へえ、こんな笑顔の人なんだと驚いた。沖縄に来て紀谷氏を初めて見たのは4月2日だった。当時の玉城デニー県政は、米軍が嘉手納基地で繰りかえしているパラシュート降下訓練に対して、1996年の「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)や2007年の日米合同委員会の約束破りだからやめろと訓練のたびに申しいれていた。4月2日も、県庁に呼びだされて副知事から抗議文を受けとったのは紀谷氏と村井勝・沖縄防衛局長だった。紀谷氏はずっと神妙な顔つきだった。
■沖縄特命全権大使のお仕事
沖縄特命全権大使とは何なのかを私は知らないが、在沖米軍が何かをするたびに沖縄県側の抗議文を受けるのは紀谷氏だから、頭を下げるのが主な任務なのだろう。「在沖米軍」による「何か」は常に「悪いこと」だから、にこにこして受けとることはできますまい。
つらい仕事だろうと思うが、不思議でもある。米国の軍隊がしでかしたことに、どうして日本の外務省が頭を下げねばならんのかね。「在沖米軍は日米合意を守らんからけしからん」とか、「外国軍は沖縄(日本)から出ていけ」とかと、日本政府を代表して怒ったり抗議したりはできないのかしら。
それはともかく、紀谷氏の神妙な面持ちというのか渋顔というのか、そういう表情しか見たことがなかったから、古謝知事との面談のために県庁にきた紀谷氏の、出迎えた県職員と歓談する表情はよけいにさわやかに感じた。
■まずは「ご理解とご協力」
しかし紀谷さん、面談での発言はちょっと感心できませんね。
最初に、「あらためまして沖縄県知事就任おめでとうございます。着任早々県内各所をまわってリーダーシップを発揮していることに敬意を表します」と祝意を伝えたのは礼儀だからよろしいとして、本題の始まりが以下なのはどうなのでしょうか。
「わが国を取りまく安全保障環境はいっそう厳しくなっている。そういう中で抑止力の観点から在沖米軍・在日米軍は極めて重要な役割を果たしている。その在日米軍の安定的な駐留にはみなさん方のご理解とご協力が不可欠です」
米軍普天間飛行場所属の海兵隊員が強盗殺人容疑で10月4日に緊急逮捕されたことは、翌日の5日に県庁に呼びだされて古謝知事から抗議文を受けとっていますから(沖縄報告②参照)、紀谷さんもご存じのはずです。
さらには、強盗殺人事件を受けて米軍が午前0時から午前5時までの外出禁止措置をとっている「反省期間」中の10月31日午前0時30分ごろ、米軍キャンプ・ハンセン所属の米海兵隊員が酒気帯び運転疑いで現行犯逮捕されたのは、面談の4日まえでした。
「在沖米軍・在日米軍へのご理解とご協力」をもとめたあと、ようやく紀谷さんは「先日、米軍人が容疑者となる事件が発生したことは極めて遺憾に思います。また先週末、外出禁止時間中に米海兵隊員が酒気帯び運転の疑いで現行犯逮捕されたことは重ねて遺憾であり、私から米側に綱紀粛正と再発防止を申し入れたところです。本件を含めて、在沖米軍の駐留に伴い、沖縄のみなさんに多大なご負担をおかけしていることも重く受けとめております。基地負担軽減は政府の最重要課題のひとつです。引き続き負担軽減に全力で取り組んでまいります」と言いました。
順番が逆だろうと私は思いますね。一県民として少し感情的になるなら、沖縄に米軍基地があるのは日本政府が歓迎しているからであり、ならば「米軍基地があるゆえの犯罪」の責任は日本政府にも当然あり、米軍の外出禁止措置は紀谷氏ら外務省職員も対象になっていいぐらいだから、「反省期間」中にうろちょろ出歩くなよ――と言いたくもなります。
■古謝知事は事件への抗議と基地負担軽減の訴えを先に
古謝知事は、知事就任の祝辞をうけて「お忙しいなかお越しいただきましてありがとうございます。紀谷大使をはじめ外務省沖縄事務所のみなさまには、さまざまな事業に連携して取り組んでいただいて感謝を申しあげたい」と返礼したあと、以下を訴えました。
「一方で、先般の米軍人による強盗殺人事件には改めて強く抗議をしたい。県は、米軍および日米両政府の責任において実行性のある抜本的な対策を講ずるよう強く求めている。政府は米国との協議を進めていると聞いているので、今後どのように実行されるのか引き続き確認していきたい」
「戦後 81年の現在もなお、国土面積の約0.6パーセントに過ぎない本県に在日米軍専用施設の約70パーセントが集中するなど、沖縄県民は過重な基地負担を強いられ続けている」
「沖縄県としては、米軍基地から発生する諸問題を解決するために、日米地位協定の改定をふくむ見直しについても必要であると考えているので、その実現に向けて取り組んでいただくようお願いする」
その後に古謝知事は「一方で連携するところは連携をしていきたい」と述べて、沖縄県と外務省とが連携している人材育成や国際交流事業への感謝と協力依頼を伝えました。
紀谷さんと古謝知事の双方が文書を読みあげたあと、報道陣は退室を求められましたから、その後の密談の内容は分かりません。
■「国益」優先をお願いします
報道陣は廊下で「出待ち」をしました。十数分後に出てきた紀谷さんは問いかけに応じず、「なぜ最初に米軍駐留への理解と協力を求めたのか」と私も聞きたかったけれど、できませんでした。紀谷さんは無言のままエレベーターに乗り、エレベーターの戸が閉じていく間もずっと笑顔でした。映画の一場面のようでした。
このときの紀谷さんの笑顔の意味を考えました。いくつかの推論は以下のとおりです。
・古謝知事の就任祝いに来たのだから渋面は相手に失礼だと考えていた。
・いままで散々、玉城デニー県政に県庁に呼びだされて報道陣のまえで頭をさげさせられてきた。その屈辱を振り払うべく無理に笑った。
・紀谷氏はいつも笑顔の人であり、私が渋面の場面しか見てこなかっただけだ。
さらに邪推すると、「日本政府に協調的な古謝県政が誕生したことへのよろこびを隠しきれなかった」のかもしれないし、「記者どもに下賜する言葉はない」と考えたのかもしれない。いわゆる威光を頼みにした嘲笑。せせら笑い。どちらでもよろしいけれど、その姿勢の源泉は、宗主国につかえる従属国官僚の歪な自尊心ではなく、「日本国民が豊かで安全な生活ができるように、日本の国の利益(国益)を守る仕事をしています」(外務省のホームページ「キッズ外務省」)という誇りからのものであってほしいと願っています。「米国益」よりはもちろん「日本の国益」よりも「民益」であったらなおさらよろしい。レイバーネット沖縄報告⑤笑顔の外務官僚に何が嬉しいのかは教えてもらえなかった
2026年11月4日
ジャーナリスト・下地毅
外務省の紀谷昌彦・沖縄特命全権大使は2026年11月4日、「知事就任に伴うご挨拶」のため古謝玄太知事を沖縄県庁にたずねた。面談は冒頭だけの公開で5分で報道陣は退室をもとめられた。紀谷氏は最初に「米軍の駐留」に理解と協力をもとめた。
紀谷氏が約束の2分まえに県庁第一応接室に入ってきたとき、へえ、こんな笑顔の人なんだと驚いた。沖縄に来て紀谷氏を初めて見たのは4月2日だった。当時の玉城デニー県政は、米軍が嘉手納基地で繰りかえしているパラシュート降下訓練に対して、1996年の「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)や2007年の日米合同委員会の約束破りだからやめろと訓練のたびに申しいれていた。4月2日も、県庁に呼びだされて副知事から抗議文を受けとったのは紀谷氏と村井勝・沖縄防衛局長だった。紀谷氏はずっと神妙な顔つきだった。
■沖縄特命全権大使のお仕事
沖縄特命全権大使とは何なのかを私は知らないが、在沖米軍が何かをするたびに沖縄県側の抗議文を受けるのは紀谷氏だから、頭を下げるのが主な任務なのだろう。「在沖米軍」による「何か」は常に「悪いこと」だから、にこにこして受けとることはできますまい。
つらい仕事だろうと思うが、不思議でもある。米国の軍隊がしでかしたことに、どうして日本の外務省が頭を下げねばならんのかね。「在沖米軍は日米合意を守らんからけしからん」とか、「外国軍は沖縄(日本)から出ていけ」とかと、日本政府を代表して怒ったり抗議したりはできないのかしら。
それはともかく、紀谷氏の神妙な面持ちというのか渋顔というのか、そういう表情しか見たことがなかったから、古謝知事との面談のために県庁にきた紀谷氏の、出迎えた県職員と歓談する表情はよけいにさわやかに感じた。
■まずは「ご理解とご協力」
しかし紀谷さん、面談での発言はちょっと感心できませんね。
最初に、「あらためまして沖縄県知事就任おめでとうございます。着任早々県内各所をまわってリーダーシップを発揮していることに敬意を表します」と祝意を伝えたのは礼儀だからよろしいとして、本題の始まりが以下なのはどうなのでしょうか。
「わが国を取りまく安全保障環境はいっそう厳しくなっている。そういう中で抑止力の観点から在沖米軍・在日米軍は極めて重要な役割を果たしている。その在日米軍の安定的な駐留にはみなさん方のご理解とご協力が不可欠です」
米軍普天間飛行場所属の海兵隊員が強盗殺人容疑で10月4日に緊急逮捕されたことは、翌日の5日に県庁に呼びだされて古謝知事から抗議文を受けとっていますから(沖縄報告②参照)、紀谷さんもご存じのはずです。
さらには、強盗殺人事件を受けて米軍が午前0時から午前5時までの外出禁止措置をとっている「反省期間」中の10月31日午前0時30分ごろ、米軍キャンプ・ハンセン所属の米海兵隊員が酒気帯び運転疑いで現行犯逮捕されたのは、面談の4日まえでした。
「在沖米軍・在日米軍へのご理解とご協力」をもとめたあと、ようやく紀谷さんは「先日、米軍人が容疑者となる事件が発生したことは極めて遺憾に思います。また先週末、外出禁止時間中に米海兵隊員が酒気帯び運転の疑いで現行犯逮捕されたことは重ねて遺憾であり、私から米側に綱紀粛正と再発防止を申し入れたところです。本件を含めて、在沖米軍の駐留に伴い、沖縄のみなさんに多大なご負担をおかけしていることも重く受けとめております。基地負担軽減は政府の最重要課題のひとつです。引き続き負担軽減に全力で取り組んでまいります」と言いました。
順番が逆だろうと私は思いますね。一県民として少し感情的になるなら、沖縄に米軍基地があるのは日本政府が歓迎しているからであり、ならば「米軍基地があるゆえの犯罪」の責任は日本政府にも当然あり、米軍の外出禁止措置は紀谷氏ら外務省職員も対象になっていいぐらいだから、「反省期間」中にうろちょろ出歩くなよ――と言いたくもなります。
■古謝知事は事件への抗議と基地負担軽減の訴えを先に
古謝知事は、知事就任の祝辞をうけて「お忙しいなかお越しいただきましてありがとうございます。紀谷大使をはじめ外務省沖縄事務所のみなさまには、さまざまな事業に連携して取り組んでいただいて感謝を申しあげたい」と返礼したあと、以下を訴えました。
「一方で、先般の米軍人による強盗殺人事件には改めて強く抗議をしたい。県は、米軍および日米両政府の責任において実行性のある抜本的な対策を講ずるよう強く求めている。政府は米国との協議を進めていると聞いているので、今後どのように実行されるのか引き続き確認していきたい」
「戦後 81年の現在もなお、国土面積の約0.6パーセントに過ぎない本県に在日米軍専用施設の約70パーセントが集中するなど、沖縄県民は過重な基地負担を強いられ続けている」
「沖縄県としては、米軍基地から発生する諸問題を解決するために、日米地位協定の改定をふくむ見直しについても必要であると考えているので、その実現に向けて取り組んでいただくようお願いする」
その後に古謝知事は「一方で連携するところは連携をしていきたい」と述べて、沖縄県と外務省とが連携している人材育成や国際交流事業への感謝と協力依頼を伝えました。
紀谷さんと古謝知事の双方が文書を読みあげたあと、報道陣は退室を求められましたから、その後の密談の内容は分かりません。
■「国益」優先をお願いします
報道陣は廊下で「出待ち」をしました。十数分後に出てきた紀谷さんは問いかけに応じず、「なぜ最初に米軍駐留への理解と協力を求めたのか」と私も聞きたかったけれど、できませんでした。紀谷さんは無言のままエレベーターに乗り、エレベーターの戸が閉じていく間もずっと笑顔でした。映画の一場面のようでした。
このときの紀谷さんの笑顔の意味を考えました。いくつかの推論は以下のとおりです。
・古謝知事の就任祝いに来たのだから渋面は相手に失礼だと考えていた。
・いままで散々、玉城デニー県政に県庁に呼びだされて報道陣のまえで頭をさげさせられてきた。その屈辱を振り払うべく無理に笑った。
・紀谷氏はいつも笑顔の人であり、私が渋面の場面しか見てこなかっただけだ。
さらに邪推すると、「日本政府に協調的な古謝県政が誕生したことへのよろこびを隠しきれなかった」のかもしれないし、「記者どもに下賜する言葉はない」と考えたのかもしれない。いわゆる威光を頼みにした嘲笑。せせら笑い。どちらでもよろしいけれど、その姿勢の源泉は、宗主国につかえる従属国官僚の歪な自尊心ではなく、「日本国民が豊かで安全な生活ができるように、日本の国の利益(国益)を守る仕事をしています」(外務省のホームページ「キッズ外務省」)という誇りからのものであってほしいと願っています。「米国益」よりはもちろん「日本の国益」よりも「民益」であったらなおさらよろしい。

