
<評者:志水博子>
毎木曜掲載・第440回(2026.6.25)
『シン・ケンポウ やさしく学ぶ日本国憲法』清水雅彦 著(同時代社)

今年4月、高市早苗首相は自民党大会において「憲法改正の時は来た」と述べ、来年の国会発議を目指すと表明した。自民党が改憲草案を公表したのは2012年のことだが、党是ともいえる「憲法改正」に対する首相の思いは非常に強いものがある。すでに衆参両院の憲法審査会では、緊急事態条項、9条への自衛隊明記、国民投票などが焦点となっている。
その一方で、国会前では改憲に反対する市民集会やスタンディングが、憲法審査会の開催ごとに行われている。国会前だけではない。全国各地で、SNSで呼びかけられた人々が集まり、「改憲反対!」「9条守れ!」「高市やめろ!」と声を上げている。若い人も多い。憲法は確かに私たちの中で生きており、今も生き続けているのだと感じ、嬉しくなる。
それでも、国の形ともいえる憲法が変えられてしまうかもしれないにもかかわらず、まだまだ多くの人の関心は薄いように思う。こんな時だからこそ、憲法を多くの人と学び直すために良い本はないかと考えていたところ、ふとした縁で本書が飛び込んできた。
本書の「はじめに」には、こうある。「大事なのは、具体的な場面で憲法を現実に当てはめ、活用していくことなのです」と。そう、憲法はいわば、使ってなんぼのものなのである。
本書は3部構成になっている。Ⅰ「憲法の基本」、Ⅱ「私たちに保障されている人権」、Ⅲ「憲法が定める国家機関」。全体を通して1項目が見開き2頁で完結し、全50項目で構成されている。読みやすさが工夫されており、非常にわかりやすい。しかし、内容は非常に深い。学校で一度は学んだものの、この機会に憲法をもう一度学び直したいと考える人に最適ではないだろうか。特にⅢは、学校ではあまり扱われなかった内容だろう。ⅠやⅡについても、意外と“目から鱗”の発見があるかもしれない。

何より、本書には憲法学者である著者の憲法観、すなわち考え方や生き方がストレートに表れており、小気味よい。両論併記といった曖昧な手法に頼ることなく、確かな主張が論理的に説かれている。そもそも思想性のない主張には魅力がない。さらに、各項目のタイトルも意味深で興味をそそられる。例えば、「不健康に生きる権利もある」、「法の下の平等なんてウソ?」、「国家になる自由(!?)もある」、「多数派の間違いも正す違憲審査制」、「どんな内容の改憲でもできるのではない」、「憲法自身に憲法を守る規定がある」などである。こうしたタイトルの項目ほど、読んでみると納得と発見があるように思う。
Ⅰ・Ⅱ章のタイトルのわかりやすさに比べて、Ⅲ章のタイトル「憲法が定める国家機関」は、当初は何が書かれているのか疑問に感じた。実際には、国会や内閣、裁判所の単なる解説ではなく、冒頭に登場するのは「なぜ第1章が天皇なのか」という問いである。そこから「『日の丸』が国歌でよいのか」「『海の日』とは何か」と続いていく。日本国憲法の根幹に関わる問題が提示されているように思えた。まさに、憲法とは国の形そのものなのだと実感する。
本書の題名についていえば、映画『シン・ゴジラ』を連想した人も多いかもしれない。三つの漢字について著者自身が解き明かしているが、それはそのまま著者の思いでもあるように感じられる。
「真」──誤った憲法観ではなく、「本当の」憲法観を知ってほしい。
「深」──暗記ではなく、深く考える憲法理解を目指す。
「新」──将来の憲法改正も見据え、新しい憲法の姿を考えてほしい。
本書を手に取るのは、いわゆる護憲派の人が多いかもしれない。しかしできれば、護憲か改憲かといった立場にとらわれず、この国の形である憲法を学び直す一冊として読んでほしい。

