<評者:根岸恵子> 
毎木曜掲載・第449回(2026.9.10)

『農業大国アメリカで広がる「小さな農業」』(門田一徳 著、2019年、家の光社)

 6年前コロナが最盛期だった時『ビッグ・リトル・ファーム―理想の暮らしのつくり方』(2018年 監督ジョン・チェスター、日本での公開は2020年3月)というドキュメンタリー映画を観に行った。そのころ私は、アメリカの農業は企業による巨大農場と農作物を商品化することだと思っていた。実際アメリカに行くと、広大なプランテーションに自動のスプリンクラーが回っているのを多く目にする。それを見る限りアメリカには農業労働者はいても、農家はいないと思ってしまう。それは顔の見えない農業生産者と顔のない消費者との関係という、ある意味訳が分からないものを食べさせられているということだといつも考えていた。この映画はある家族が農場に引っ越し、8年間の奮闘を描いたもので、そこから見えてくるのは、農業は自然が相手だということ。自然を支配しようとすることは無駄だということ。私たちは大地に従い、自然の中の動物や虫などの生き物や土や水を敬い、その役割を知ることだということ。それを基本にした農業は小農家にしかできない。小農家は作物を市場に出すのではなく直接消費者と繋がる。消費者は安心な食べ物を手に入れることができるのだ。

 そして、『ビッグ・リトル・ファーム』を観てからアメリカの農に興味を持つようになった。この『農業大国アメリカで広がる「小さな農業」』もこの映画がきっかけで知り、日本でもCSA(コミュニティ・サポーティド・アグリカルチャー Community Supported Agriculture)運動が広がればいいと考えるようになった。食の安全や安価な有機野菜が簡単に手に入るようになれば、資本主義前提の農業政策に疑問を持つ人がもっと増えるのではないか。

 この本はニューヨーク州イサカにあるCSAに関わり、主にニューヨーク州の様々なCSAを取り上げ、アメリカの新しい消費者と生産者の関係を描いている。CSAとは生産者と消費者が小売業者や流通業者を通さず直接つながり、継続的に農産物や食材を取引する方法で、日本では「地域支援型農業」などといわれる。基本は地産地消である。

 アメリカは過去の農業政策により大規模化がすすめられ、小規模農業は撤退せざるを得なかった。ところがオバマ政権になって直接販売に取り組む小規模農場支援を重視し、キャンペーンを始めた。小規模農家が地域の経済活動に果たす役割を重視し、小規模農場の減少が地域の衰退につながっていると考えたからだ。CSAは一役を買った。CSAは1986年にマサチューセッツ州で始まり、農業規模の拡大や効率化、低価格競争に抗った。地域で採れたものを地域の人が消費し、小規模農家や地域の人々に支援され全国的に広がっていった。CSAは生産者と消費者双方にメリットがあり、地域を豊かにした。

 日本には昔からCSAのような活動が存在したのではないかと思っている。生協運動はCSAとは少し違うが、生産者と消費者を繋げることで始まったともいえるし、昔は野菜売りのおばちゃんがたくさん野菜を売りに来ていた。またこの本でも取り上げられているが「農産物直販所」や「道の駅」など、地域で採れたものを扱うところが増えたこともある。これによって小規模農家は販路を広げることにつながった。CSAのような活動が広がれば、衰退する日本の農業にも一石を投じられるのではないだろうか。

 この7月に福岡で開かれた「小農学会」に参加した。やはり課題は地域の農業と農村を守ることだった。CSAの運動の中にワークシェア農業というのがある。これは会員も作る側になって、農作物を育てて、みんなで分け合うというようなもの。福岡に行ったついでに井原山の棚田で「井原山田縁プロジェクト」というワークシェアで米を作っているグループのところへ見学に行った。これは高齢化して担い手のない田んぼで米作りサポーターを募集してみんなで米を作り、それを安価で買うという運動。サポーターはほとんど町の人で毎回楽しく参加しているという。「まちとむらのささえあい」をスローガンに2004年から続いている。見学したとき、田んぼには青々とした稲が元気に育っていた。

 アメリカには実は小農家がたくさんいることをこの本を通じて知った。CSAの運動は農業だけでなく漁業やパン作りなど、今や多岐にわたり、小規模な生産者を支えている。日本の農政は新しい着眼点を持ち、CSAを地域に広げていくべきだ。もう大規模農業の時代ではない。

 農について関わりだしてから、農家と消費者、自然と農という当たり前の関係について考えるようになった。命を支える食物、食物をつくる農家、農を支える自然。そういうものが安定してこそ暮らしを守り、命を育む。だから自然環境を破壊することは私たちから食物を奪うことだ。気候変動によって、今農業は大変な危機状況にある。地産地消を目指し、食糧自給率をあげることだ。そうしないと、明日は食べるものがなくなるかもしれない。