<評者:黒鉄好> 
毎木曜掲載・第441回(2026.7.2)

連鎖する戦争と諦めず非暴力で抵抗する人々を描いたルポルタージュ(西谷文和・著、かもがわ出版、本体1800円、2026年5月)

 戦争はなぜ起こるのか。①土地・領土、②資源・エネルギー、③宗教、④人種・民族――のどれかをめぐって引き起こされることがほとんどである。中東には常に戦争のイメージがつきまとっているが、この地域が複雑なのはこの4つのすべてが関係しているからだ。西谷さんが導いている結論もほぼ同じだが、中東地域に世界中から大量の武器が流れ込んでいることを理由として挙げているのが特徴だ(最終章)。

 これまで私たちは戦争が始まると武器が売れ、死の商人が儲けると思っていた。その認識を改める必要はないが、武器があるから戦争が引き起こされるという「逆の因果関係」にもっと目を向けるべきであることを本書は読者に教えてくれる。

 優れたルポルタージュだと思う。イスラエル、パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)をはじめレバノン、シリアをくまなく取材している。戦争を起こす側の論理を一般市民にわかりやすく解説するだけなら、テレビに出演する防衛研究所の研究員でもかまわないが、西谷さんはそれにとどまらず、戦時下でもたくましく暮らす現地の市民の息吹を地べたから伝える。2000年代初めのイラク戦争でも西谷さんは中東専門家として活躍したが、「地べたの息吹」を大切にする手法はあれから四半世紀を経た今なお少しも変わらない。同時にそれは、大手ジャーナリズムに決定的に欠けている視点でもある。

 とりわけ私が圧巻だと感じたのは、ヨルダン川西岸で、40人のユダヤ人が監視小屋を作り、同じユダヤ人の入植活動を常時監視しながら、身体を張って阻止する闘いだ。ネタニヤフ首相の戦争政策に反対する集会にも数千人が参加する。イスラエルのユダヤ人全員が「異民族の最後の一人まで殺し尽くせ」と考えているわけではない。
 
 ハマスに両親を殺されたユダヤ人マオズと、イスラエル軍に兄を殺されたアジーズは手を取り合い、報復ではなく対話で平和をめざす。シリアでも、アサド政権打倒後の新政権が報復を禁じたため、最悪の事態を免れている。ここに私は平和に向けた大きな希望を見いだす――と本当なら書きたいが「希望とは行動すること。どこかで見つけたり失ったりするものではない」と2人は言う(本書110頁)。私も2人のこの言葉に応えたいと思う。

 イラク戦争後、米兵にPTSDが頻発したように、ジェノサイドに加担したイスラエル兵士にもPTSDが増えていると元兵士が告発する。イスラエル社会はこのためにいずれ壊れることになると彼らは口を揃える。気になるのは、西谷さんはじめイスラエルを深く取材し、よく知る人ほど「最近の日本社会がイスラエルに似てきている」と指摘していることだ。右傾化、排外主義、政権側による意図的なフェイクニュース拡散など、確かに似ている。

 ガザの次に激しい攻撃を受けたヨルダン川西岸の街トルカレムで西谷さんの取材に同行したのがモハンマド・アローシュ(「パレスチナ闘う労働者組合」代表)だ。ジェノサイド開始以降、イスラエルで働いていた西岸地区の労働者の多くが解雇され貧困化していると彼は言う。そのアローシュが7月25~26日、大阪で開催される「平和と民主主義をめざす全国交歓会」(全交)に参加する。アローシュから最新のパレスチナ情勢に関する報告を聞く絶好の機会であり、ぜひ多くの人に参加してほしい。