永田浩三(ジャーナリスト・武蔵大学名誉教授)

主演は一ノ瀬ワタルさん。映画『宮本から君へ』で一躍有名になった。文化庁から一度は助成金の交付中止を宣告されたものの、裁判で表現の自由をめぐって争い、見事勝利した映画だ。『宮本から君へ』の中で、一ノ瀬さんは蒼井優さんをレイプし、恋人役の池松壮亮さんから体を張った反撃にあい、泣き叫んでごめんなさいをする、くそったれのラガーマンの役を演じた。
さて、『四月の余白』では一ノ瀬さん演じる元半グレ・西健吾が、刑期を終えて、「みらいの里」という全寮制の更生施設で少年たちのために格闘する。だが教育の専門家は冷ややか。非情なメディアの告発によってこれまでの努力は破壊されてしまう。それでも西はあきらめることなく前を向こうとする。一ノ瀬さんのこれまでのイヤーなヒールのイメージが一掃される。絶望のなかに一条の希望の光が差すような映画だと思う。
西健吾が格闘する少年は、ひとの痛みが理解できない澤海斗(演じるのは上阪隼人さん)、リストカットを繰り返す生島詩(演じるのは山崎七海さん)。二人とも抱えている闇が深い。いや、海斗についていえば、闇なのかどうかもわからないほど、取りつく島がみつからない。
それでも西は、海斗と鳥小屋を作ろうと、二人だけの大工作業へ誘う。ちょっとずつ海斗はこちらを向いてくれるように。海斗は思いのほか、手先が器用なのだった。だが、クラスの担任の草野冬子(演じるのは夏帆さん)がやってきて、ほっとしたのもつかの間、完成したばかりの鳥小屋に異変が起きる。
人間が変わるって簡単なことじゃない。言葉が通用しない場合だってある。それでも絶望するわけにはいかない。ひとつひとつのことが踏み固められながら進んでいく。ほんとうに一歩一歩だということを、この映画は教えてくれる。
わたしはテレビのディレクター・プロデューサー時代、いじめ・校内暴力・学級崩壊などの問題を、学校や医療少年院などに通って番組をつくった。事態の改善に役立つこともないではなかったが、多くは言葉足らずで中途半端なものだった。
一ノ瀬さんが演じるにあたって、参考にしたテレビドキュメンタリーがある。愛知県で家庭内暴力などに苦しむの家族ための駆け込み寺。元は地域のワルで、その後名物営業マンだった廣中邦光さんの奮闘記録。わたしが大学でゼミを持った時、ひとりの学生が卒業制作に選んだのが、廣中さんのもとに通って児童虐待について考える作品だった。同じ時期にテレビの作品があることは知らなかったが、永田ゼミで第一作目の本格ドキュメンタリーになった。不思議な縁を感じる。
ところで、タイトルの『四月の余白』は、どこから来たのだろう。新学期、新入生としてスタートを切ることができないひとたち。余白の部分にしか存在を認められないということだろうか。わからない。
★『四月の余白』公式サイト⇒https://shigatsu-yohaku.com

