永田浩三(ジャーナリスト・武蔵大学名誉教授)

ずっと観なきゃ、観なきゃと思っていたのに、ずいぶん遅くなってしまった。
イスラエルとガザとの間で停戦合意が発表される直前の2025年9月から、停戦合意がなされた後、11月までのおよそ3か月、ガザの人々がどのように生きのびてきたのかを、市民の目線から見つめた力作だ。
監督はガザ出身のジャーナリストのムハンマド・サウワーフ。ガザの映像制作会社アレフ・マルチメディアと日本の映画配給会社アップリンクによる共同プロジェクト「ガザからの声」の第3弾として生れた。
2025年9月、イスラエル軍はSNSや上空からのビラを通じて、ガザの住民に対して、南部のアル・マワシへ避難するよう指示した。逃げる道は海沿いの幹線道路「アル・ラシード通り」しかない。サウワーフ監督は両親と4人の兄弟を殺害され、南部に避難していたが、再び北上を試み、逃げてくる人たちを撮影することにした。そこで見たものは、これ以上積み切れないほどの荷物を積んだトラックや馬車、着の身着のままで憔悴しきった人々の姿だった。家族が休むためのテントの釘を打ち、海岸まで降りて行って海水を汲む。火を熾すための廃材やプラスチックを見つけてくる。お手伝いが終わると、わずかな時間を見つけて友だちと遊ぶ。女の子たちはみな懸命でたくましかった。ガザでは15歳未満の子どもが人口の4割弱を占める。子どもたちがガザの大人たちを含めた暮らしを支えているのだ。
同じようなテントが林立する中で、人々は助け合って暮らす。道路わきの石窯で焼くパンのおいしそうなこと。燃料も不十分なのにさすがの技だ。避難地の水と食料の不足は深刻で、からだと心を健康に保つことは簡単ではない。おばあさんはいらだち、子どもたちにきつく当たったりもする。小さな、でもとっても大事な日常の機微が見事に記録されている。ガザの人々の困難ってこういうことの積み重ねなんだ。
停戦合意がなされたあとも、死傷者は増えている。そんななか3か月の間に17000人の新たな命が誕生した。いったんはアル・ラシード通りを南下した人々は、今度は一転して北上し、故郷の町に帰り始める。だがそこで見たものは、無残な瓦礫がどこまでも続く風景だった。掘り起こして見つかるのは教科書や娘のノート。家族の遺体をまだ発見できていない人々も多いことだろう。
映画の中では、広島原爆の話が出てくる。イスラエル軍はまさにヒロシマ。ナガサキを連想させるほどの残虐行為を行ったのだ。今注目を集めるICC(国際刑事裁判所)の赤根智子裁判長たちがネタニヤフ首相に逮捕状を出したのは当然のことだと思う。日本政府も、赤根さんが窮地に追い込まれないようトランプに対して毅然と抗議してもらいたい。
映画の中で、瓦礫の町をドローンが行く映像が何度か出てくる。その恐ろしさといったらない。人間ってこんなむごいことをするのか。
それにしても、よく撮影したと、びっくりすることだらけ。この映画が日本の映画人たちの努力によって完成したことを素晴らしいと思う。映画は67分と短い。どうか多くの方たちに観てもらいたい。

★『九月のアル・ラシード通り』公式サイト⇒https://eiga.com/movie/106231

