●「気になる、こんどの収蔵品――作品がつれてきた物語」展(世田谷美術館)
●「路上、お邪魔ですか」展(渋谷区立松涛美術館)

<志真斗美恵 第27回(2026.9.28)・毎月第4月曜掲載>

 世田谷美術館は、砧公園の中にある。19,000点を超える多彩な作品が収蔵されているというが、私は、今回の「気になる、こんどの収蔵品」展で紹介される2000年からの収蔵品(約120点)展示のうち、小林喜巳子(1929-2023)の作品が見たくて訪れた。2019年、町田市立国版画美術館で見た「私たちの先生を返して 実践女子学園の斗い」(1964)をもう一度見たいと思った。この作品は本展のチラシ表面で大きく使われている。人の顔や手足は濃い肌色、背後の鉄条項は灰色で、セーラ―服の白と黒が木版画ならではの鮮やかな効果をあげている。

 マイクを握っている女生徒を制服姿の女生徒たちが囲んでいる。描かれているのは300人を超えている。彼女たちは、組合運動のために解雇された3人の男性教諭の復職を求めている。よく見るとマイクを持った制服姿の女子高生の脇に3人の男性が並んでいる。馘首された3人だ。その内の1人は作者小林の夫である。小林は報道写真を参考にしてこの版画を描いた。1960年代初頭のことだ。彼女は世田谷生まれで、小児まひで右手が不自由だったが東京美術学校(現・東京芸術大学)の女子一期生として46年に入学した。今回、私が初めてみた「土手の道」(2000)は、明るく彩色された木版画で、上半分は青い空、下半分は草に覆われ花も咲いている土手。空には鳥が舞い、パラグライダーも見える。土手の上には、車椅子を押している女性、ランニングの若者、犬を連れたおじさん、自転車の青年、散歩の婦人が描かれいる。これは70歳を超えてからの作だが、その明るさに驚くと同時に見るものをほっとさせる力がある。現在の状況を小林はどのように描くのかと思った。拙著『追想美術館』(2021年)で彼女の版画作品を取り上げた時、小林は施設で生活していたが、その後亡くなり、これらの作品は世田谷美術館に寄贈された。

 松涛美術館の「路上、お邪魔ですか」展は、金沢21世紀美術館で4月25日から9月6日まで開かれていた。「路上観察学会」創設40周年も契機となっていて、手書きの大きな横断幕もある。故赤瀬川原平、藤森照信、南伸坊らが集まった「路上観察学会」には、均質化した都市への批判がみえる。

 いま新宿駅西口の「広場」が姿を消そうとしている。かつて1969年、ベトナム戦争に反対する若者達が集い歌った場所だ。〈フォークゲリラ〉と呼ばれた。当時の写真も展示されていた。「広場」は「通路」になり立ちどまることすらできなくなった。段ボールハウスで生活する人びととその撤去、子どもや老人にとっての「路上」。大道芸のビデオ、公園の遊具、歴史的な資料等も紹介し、路上の公共性、路上は誰のものかを問うている。

(世田谷美術館11月23日まで 入場料220円/大高生170円/65歳以上・中小生・障害者110円 渋谷区立松涛美術館11月23日まで 入場料1000円/大学生800円/高校生・60歳以上500円/小学生100円)