永田浩三(ジャーナリスト・武蔵大学名誉教授)

 監督は坂西未郁さん、みいくと読む。京都の学生の時はいくつもの大きな賞に輝き注目された。今回は劇映画の初の監督作品。アップリンク吉祥寺のお客さんは10人と少なかったが、新たな才能に出会えたことがうれしい。

 舞台は大分の竹田と九重連山の見える中山間地。そこに小さな写真店がある。季節は2月から4月まで。丘陵は一面枯草に覆われ、春が来るのを待っている。店主のまこと(イッセー尾形)は足を骨折。東京で暮らす娘(穂志もえか)の夫(柄本佑)が日常生活のサポートにやってくる。

 松葉杖のイッセー尾形は、小学校や結婚式の出張撮影に呼ばれるが、そこに柄本佑が付き添う。映画はこの二人で進行していく。二人の間に会話はほとんどないが、お互いを気遣い、大事に思っているのがよくわかる。

 一見どこにでもあるような記念写真だが、イッセー尾形はシャッターを切る直前に、ちょっと変てこな顔をして、相手の緊張を和らげ、自然な笑顔を引きだすのだった。マンネリかもしれないが、どんなときでもひと手間を惜しまない。写真は瞬間を映すものだが、永遠に残るものでもある。瞬間のちょっとした違いと瞬発力が、記録と記憶において大きな違いをもたらす。イッセーさんは、この世の景色がいちばん輝く瞬間をとどめておきたい人のようだ。

 写真館の近所に夫婦で移り住んできた佐々木さんが急に亡くなった。ホッピーと野球放送が好きだった。お通夜の会場に遺影に使う写真を持って駆け付けるイッセーさん。遠くからえっちらおっちら松葉杖姿でやってくるのを見つけた遺族は、みんなでイッセーさんを取り囲む。そうだよなあ。子どものころ体験した御通夜ってこんな優しさにあふれていた。遺影の中で微笑む佐々木さん、どこかで見たことがある。そうだ!渋谷のユーロスペースの代表・北條誠人さん、その人だった。映画への愛に溢れ、時には厳しい批評をする北條さん、こんないたずらもするんだ。

 映画はほとんどすべての場面をミドルショットで押し通している。アップになるのは、後半、柄本佑さんが義父・イッセー尾形の妻がなくなる直前に携帯電話にメッセージを残していたことを知る場面。ここまでよく我慢したと思う。この度胸と覚悟が映画に静謐さをもたらしている。

 さて、イッセーさんの娘役の穂志もえかさんは東京で暮らし、台湾からやってくるインバウンドの旅行客の通訳をし、子育てをしながら、夫の帰りを待つ。旅行客によい思い出が残るよう、スマホで素敵な記念写真を撮ってあげることを心掛けている。

 一方、柄本さんも、義父の写真館のまわりを犬を連れて散歩するとき、心のセンサーに触れた風景をスマホで撮る。大好きな場面は、丘陵で草を食む馬とちょっとずつちょっとずつ心を通わせ、最後はたてがみをなでるようになるところ。毎日同じように時間が流れているように見えて、あらゆるものは変化し、一瞬たりとも留まっていてはくれない。だからこそ、かけがえのない時間を忘れないでとどめておける写真という道具が大事であり、奇跡のようにいとおしいのだ。

 映画の世界に、坂西未郁さんという新しい作り手が登場したことを心から喜びたい。

★『メモリィズ』公式サイト⇒https://memorizu.jp