<黒鉄 好>

新宿駅のルミネに入居している飲食店「ベルク」が久々に話題になっている。迎撃型ドローンの取り扱いを始め、恥ずべき「死の商人」に身を堕としたネット通販サイト「楽天市場」からの撤退を決めたのだ。
8月下旬からの各メディア報道によると、ベルクが楽天市場でコーヒー豆やグッズのネット通販に乗り出したのは今年3月。ようやく軌道に乗り始めたところだった。ところが、8月17日以降、楽天グループがドイツのスタートアップ(新興企業)「ヘルシング」と提携し、同社による日本の防衛省への迎撃用ドローン納入を支援すると相次いで報じられた。ベルクの井野朋也店長は「ずっと反戦を掲げてきたのに、軍需産業に関わる企業に出店するわけにはいかない」と自分の信念を貫き、楽天市場からわずか半年での撤退を決めた。
ベルクといえば、現在も営業を続けるビル、新宿ルミネから追い出し攻撃を受けたこともあるが「(契約期間中でも建物所有者が入居者に賃貸料値上げなどの不利益変更を行える)定期賃貸契約に切り替えませんか」というJR・ルミネの口車に乗せられず、店を守った歴史もある。レイバーネットでも署名を集め支援したことは、私にとっても忘れられない思い出だ。
楽天市場が迎撃型ドローンの取り扱いを決めて以降、反戦・平和の強い経営方針を持つ企業を中心に撤退が相次ぐ。カタログハウスが先例を作り、革小物の製造販売会社「ガッツ」(大阪府茨木市)も8月24日に続いた。「ガッツ」は「「平和こそが道」といった社の理念を踏まえて「平和という価値観を守るために、売り上げを減らす経営判断をした」と撤退の方針を説明している。
ICC(国際刑事裁判所)に米トランプ政権が制裁を発動するなど、戦後の国際秩序を維持してきた国際法が風前の灯火となっている。国際機関が、理念は提唱できても加盟国に国際法を守らせる実体的な手段を欠く中で、無力感、「軍拡やむ無し」論が勢いを増す。そんな不穏な内外情勢にあって、近年、急速に関心が高まっているのが「ビジネスと人権」分野だ。ビジネスと人権の基本原則を根拠に、市民や、市民と連帯する企業が人権向上に取り組む。戦争、軍事に加担する企業には不買運動を通じてカネを流さず、渡さない動きを作り出していく。市民から軍需企業への「経済制裁」として、この分野は大きな可能性を秘めている。
私自身も、今、イスラエルの軍需企業エルビット・システムズにロボット技術を供与しているファナック社に対し、エルビットへの協力をやめるよう求める行動に継続して取り組んでいる。
ルミネからの不当な追い出し攻撃から店を守り抜く中で井野店長みずから執筆した「新宿駅最後の小さなお店・ベルク」(2008年、P-Vine BOOKS)を久しぶりに読み返してみた。この本の巻末の「解説」で、外食業コンサルタント押野見喜八郎さんは、勝つ店に共通する要因に「フィロソフィ」(哲学)を挙げる。自分たちが稼いで店を持続させるだけでなく、世界人類全体の生存と、その前提条件としての平和や人権にまで思いを馳せるベルクの哲学が、世界戦争の時代に抗う新しい潮流を、またひとつ作り出しつつある。
<参考記事>
●東京・新宿の飲食店「ベルク」、楽天市場から撤退 防衛ドローン巡り「相いれない」(8/25「産経」)
https://www.sankei.com/article/20260825-RWSVGZQJ7NPW5GKVJDOQ52HWM4/
●「お花畑と言われても」楽天市場撤退の老舗飲食店主が語る 迎撃ドローン支援報道で広がる波紋(9/1「東京」)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/512488


