
2018年秋にスタートした「あるくラジオ」は、今回で35回を迎えた。パーソナリティは、しまひでひろ・ささきゆみのコンビである。「生きることはたいへん 生きることはうれしい 希望を探して」のキャッチフレーズで始まるこの番組だが、10月2日の放送はズバリそんな内容だった。ゲストはレイバー映画祭で話題になった映像作品『懲罰自転車』の主人公・郵便配達員の永井晃彦さん(49歳)だった。スタジオのビデオプレス事務所に午後1時にやってきた永井晃彦さん。長身でスキンヘッドでがっちりした体つきでカッコいい。

ささきさんの口上から番組は始まった。「それでは早速ゲストをご紹介します。今日のゲストは、郵便配達員の永井晃彦さんです。永井さんは、2025年、昨年の夏、仕事上の軽微なミスを理由に2週間の自転車業務を命令されました。本来、荷物はバイクで運ぶのですが、真夏の炎天下、35キロの荷物を自転車で運ぶ仕事は、命にかかわるような激務でした。永井さんは、これを労働局に通報し、NHKが取り上げることになり、この業務は中止になりました。この間の事情は、堀切さとみさんが制作した『懲罰自転車』という20分の映像作品に描かれています。わたしも拝見して、たいへんショックを受けました。永井さん、よろしくお願いします」

たった一人で声を上げ、巨大企業「日本郵政」と立ち向かった男はどんな人でどんな思いだったのか? 演劇や舞台照明の仕事をしてきたが失職し、食べるのに苦労するほど追いつめられた。そのとき、「もうどうでもいいやと思って」出会ったのが郵便配達の仕事だった。やってみたら永井さんには合っていた。「毎日毎日、晴の日もあれば雪の日も風の日もある。大変でしょうとよく言われるが、自分としては一人で自由だし外の仕事っていいなと思っている。とくに春と秋の季節の変わり目の一週間がいい。空の色が微妙に違う、夕焼けの時刻が違う、天気がよくて気持ちがいい、配っていて楽しい。外で働いている人はその気持ちがわかると思う」
そして10年続いてきたが、今回の事件に遭遇した。永井さんのたたかい方は従来の労働運動のパターンとは違っていた。まずは、ツイッター(現在のX)で繋がっていた全国の郵便配達員たちに愚痴をこぼすところから始まった。「こんな眼に遭っている、どうしたらいいか」と投げると、「気の毒ですね。頑張ってください」という声や「気持ちは分かるがやめたほうがいい。大会社につぶされる」という声が返ってきた。でもそれを通してこの問題は日本中で起きていることを知った永井さんは、自分だけの問題ではないと確信した。「ツイッターは大きかった。自分が納得したいから行動を起こすことを決めたが、ツイッターの応援がなかったら泣き寝入りしていたかもしれない」。そんな揺れる心の葛藤が語られた。そしてツイッターつながりで「東京中部ユニオン」とも出会った。

「郵便局には大きなJP労組があると思いますが、相談しなかったのですか?」の質問に即座にこう答えた。「JP労組にはほぼ全員が入っている。でも何にもやらないところ。選挙のときだけどこどこに入れてくれ、というだけ。組合員が困ったときに組合員を助けるところではない。会社と繋がっているので怖くて相談もできない」と。それを聞いて私は、職場の酷い実態をささえているのは、じつはチェック機能を失った労使一体の労働組合なのではないかと思った。
話が盛り上がったのは「郵政の常識は、世の中の非常識」というところ。永井さんは「民間で働いた経験があるが、郵政は異常だと思った。ミスをした職員をつるしあげる『お立ち台』、万単位の年賀状をノルマで課して自爆(自腹で買わせる)させるなど、驚くことばかり。郵政のおかしいところは上は絶対に責任をとらないこと。責任は下へ下へ押しつけるところだと思った」と。確かに郵便局の酷さは目立つが、いま日本全体で起きているパワハラを考えると、郵便局が特別なのではなく、日本の職場・社会の縮図なのではないかと思えてくる。
そんな中でたった一人から声を上げた永井さんだった。その後も上司の眼もあり、厳しい日々が続いている。でも永井さんはあきらめていない。「生きることはたいへん」でも「おかしいことをおかしい」と声を上げて、「希望をもとめて」歩む永井さん。暗い話ばかりでなく、ちょっといい話もある。そして、番組最後の定番質問「座右の銘、好きなことばは何ですか?」の質問に永井さんはどう答えたのだろうか? 「あるくラジオ」で永井ワールドの60分をお楽しみください。(まつばらあきら)
★放送アーカイブはこちらから。https://www.youtube.com/watch?v=dY-vfkEC8ww
〔関連情報〕11月4日の「VIDEO ACT! 上映会」で『懲罰自転車』が上映されます

■11.4 VIDEO ACT! 上映会~パワハラとたたかう、エッセンシャルワーカーたち~
私たちの生活において不可欠である仕事に、従事する人を指す言葉だ。公共バスと郵便局。それぞれの職場におけるパワハラに負けず、たたかう労働者がいる。働きながらコツコツとドキュメンタリー映像作品を作り続ける堀切さとみさんの労働映画(ロードームービー)近作2本を上映する。
上映作品
『バスドライバーにあこがれて』(2024年/30分/監督:堀切さとみ)
『懲罰自転車』(2026年/20分/監督:堀切さとみ)エッセンシャルワーカー。
■日時
2026年11月4日(水) 18時30分/開場 19時/開始
上映後、制作の堀切さとみさん、関係者を交えたトーク&ディスカッションあり。
*永井晃彦さん出演予定
■上映会場
東京ボランティア・市民活動センター(03-3235-1171) 飯田橋セントラルプラザ10階
詳細 https://www.labornetjp.com/info1

