「リドリー・ロード・マーケット」ジェントリフィケーション(富裕層向け再開発)に抗議


<根岸恵子>
家主から退去通告を受け閉鎖されたイーストロンドン・ハックニー区ダルストンにあるリドリー・ロード・ショッピングビレッジ。高級マンションに建て替えるために、犯罪や反社会的行為を理由にしての追い出しだ。庶民に愛されてきたリドリード・ロード・マーケットは、ジェントリフィケーションの犠牲になろうとしている。これに反対する入店者や市民活動家たちは半年にわたりショッピング・ビレッジのビルを占拠。闘いは今も続く。
人が憩うショッピング・ロード
リドリー・ロード・マーケットはロンドン中心部から北に5キロほどにある買い物客で賑わうショッピング・ストリートである。
その歴史は古く1880年代に遡ることができる。最初は約20件の露店から始まった。今では露店数は150を超える。商店と屋内市場のショッピング・ビレッジと合わせ、この市場では食料は言うまでもなく、日用品、衣料品、雑貨までなんでも買うことができる。スーパーマーケットなどで購入できない安価な民族産品なども低コストで提供している。
ここはユダヤ系、アフリカ系、カリブ系、ギリシャ系、トルコ系、南アジア系など多様な人々が集まり、社会的にも広く愛され、ハックニーの中心地となっている。ロンドンで最も文化的に多様なコミュニティである。また、この地域はアフロ・カリブ系の企業の拠点にもなっており、それはハックニー最大のコミュニティ拠点の一つである。
近年、リドリー・ロード・マーケットもジェントリフィケーションの波に直面しており、町の高級化が進み、ブランド系のお店が進出している。過去20年でハックニー区の不動産価格は大幅に上昇し、今では裕福な住民たちの居住地となりつつある。新しい居住者は高級志向で地元のリドリー・ロードでは買い物せず、商店者は地域社会とのかかわりが隔たっていると嘆いている。
2026年3月27日、ロンドン警視庁が犯罪や反社会行為について懸念があるとの報告を受け、屋内市場が月末に閉鎖されることが発表され、敷地を高級マンションに再開発しようとする不動産所有者によって閉鎖の危機が訪れた。たが、マーケットの事業者や支援団体はこの対応を批判している。


追い出しの系譜
2016年、民間の開発業者でバージン諸島を拠点とする「ラロシェット・リアル・エステート」がショッピング・ビレッジの建物を650万ポンドで購入、ラロシェットは、購入2か月後、建物を高級マンションにするため入居者に対し「荷物を詰めるのに2週間の猶予を与える」と退去を促した。当時は約20の露店と60のアーティストスタジオが入居していた。彼らは家主が敷地の再開発計画を提示したことで存続の危機に直面した。
その後、膠着状態が続き、2018年には家主側が強制退去を試み、多くのリドリー・ロード・マーケットの支持者による抵抗運動が何年も続いた。こうしたラロシェットの再開発計画に現在のハックニー区長を務めるゾーイ・ガーベットも参加した「セーブ・リドリー・ロード」の運動が始まった。反対運動は功を奏し、計画は放棄された。
セーブ・リドリー・ロードは「ショッピング・ビレッジ」がリドリー・ロード・マーケットに不可欠な要素であり、その再開発はマーケット、そして数多くの顧客や商人にとって、長期的な脅威となるだろうと主張している。
2019年、地元の弁護士がテナントのために3年間の新たなリース契約を交渉した後、ハックニー区議会はこの建物を「地域社会価値資産(AVC)」に指定。これは区議会の都市計画担当者が今後開発計画申請の審査をする際に、建物の社会的、地域的社会的価値を考慮しなければならないことを意味する。地域コミュニティの恩恵を理由に「ショッピング・ビレッジ」を再開発から保護した。再開発計画は撤回されたが、それ以来、商店主と家主の間で対立は続いた。
2021年には約60人のアーティストが最上階のスタジオから立ち退きさせられた。ラロシェットはここに8戸の住宅を改築する計画を提出、市議会がそれを拒否した。

「大きな勝利!」ハックニー区議会、ショッピング・ビレッジを運営、管理
2022年にハックニー区議会の決定により、区議会がショッピング・ビレッジの契約を引き継ぐことになった。セーブ・リドリー・ロードは区議会がショッピング・ビレッジの一部を管理、賃貸し、区営化するという決定を称賛し、これを「大きな勝利」として喜んだ。
区議会は今後、40の店舗区画の入っている一階部分、および露天商の資材置き場となる地下の賃貸権、管理業務を引き受ける。この決定によりショッピング・ビレッジの未来が確保された。営業する小規模事業者たちの長年の不安定な状況が終わることになる。
区長は今回の取り組みを「地域の人々に愛されている場所が守られる」と語っている。ある区議会議員は「改修後に建物の一部を長期賃貸することで区議会の管理下、かつ大幅に改善された環境のなかで、既存の個人事業者を守ることが可能になる」と述べた。
セーブ・リドリー・ロードのメンバーは「この建物が再開発されるのを防ぐために長年続けてきた取り組みが今回の決定につながったことを嬉しく思う。ハックニー区議会委が建物の管理を引き継ぐにあたり、一階で営業している商店主たちが計画プロセスのあらゆる段階に関与できるようになることを期待している。これはハックニー全域でジェントリフィケーションに反対する活動家たちにとっての勝利だと捉えている」と述べている。
しかし、これは改修工事の完了が条件となっており、区議会は15年間のリースを(賃借権)を契約したのであって、この措置は改修工事が完了したことを前提としていた。
しかし、改修工事を完了させるという法的拘束力のある合意があったにもかかわらず、工事は未完のまま合意期間は切れることになる。
ふたたび追い出し
2026年2月6日、ロンドン警視庁は、犯罪や反社会的行為に加担する事業者に対し、規制を強化するように求める「地域保護警告」を発令した。
その後警察官らは、家主が「独自の判断」で3月31日から屋内市場全体を閉鎖するとの情報を得た。閉鎖という情報を得て、商店主たちは不安な状況に直面した。そこで何十年も生計を立ててきた人々にとって壊滅的な打撃となるからだ。またもや立ち退き通知を突き付けられ、「再び貧困に逆戻りにされる」と訴えた。
今回の閉鎖はロンドン警視庁がショッピング・ビレッジにおける犯罪や反社会的行為について懸念を表明したことを受けてのものだ。
警察には家主から「警察や地方自治体の助言により、屋内市場内の複数の部署を閉鎖して犯罪や反社会的行動の懸念に対処する措置を講じた」と報告された。3月31日に屋内市場全体を閉鎖するという別個の決定も、ラロシェット側が独自に判断して行ったことだ。
立ち退きの書簡の中でラロシェットの弁護士らは反社会的行為を理由に、ロンドン市警から建物を閉鎖するように指示されたと述べている。しかし、ラロシェットは建物の閉鎖を要請していない警察の立場を誤って伝えており、しかも市警は閉鎖勧告を否定しており、コミュニティ保護警告は犯罪防止の戦術の中で最も低い警告だと述べている。
書かれた書面は間違いだらけで「クライアントはリドリー・ロードの屋内市場及び周辺における重大な犯罪及び反社会的行為について、ロンドン市警から正式な連絡を受けています」と書かれている。
腹黒いジェントリフィケーションへの思惑
ラロシェットは「反社会的行為に関与しておらず、賃料の滞納額も大きくない事業者には建物内、または屋外の区画での一時的な営業場所が提供されます」と誰も立ち退きを命じられていないと主張したが「賃貸契約が更新されることはない」つまり「賃貸契約が満了し、更新されないということです」と述べている。
ラロシェットと提携するレインボー・プロパティーズは「どのトレーダーも立ち退きの脅しを受けていない」と述べ、代わりに彼らの賃貸借契約は期限切れとなり、更新されないと告げた。
ある商店主は「賃貸契約終了の通知は予告なしに届いた」「手紙で提起された懸念事項については事前に一切知らされていなかった」と述べている。
セーブ・リドリー・ロードは「全員が立ち退きを強いられるとしたら、それは集団懲罰のように感じられる」、「彼らは生活の糧を失うことを恐れている。長年にわたり、約束が破られ、信頼関係が欠如し、事業を継続しようと努力してきた商店主たちの不満が募ってきた」と説明した。
移民や急進的な思想を持つコミュニティによって築かれ維持されてきた市場は、その地域がジェントリフィケーション(高級化)によって変貌する際、真っ先に排除されてしまう。「彼らは私たちを邪魔ものとしか思わない」
商店主や地域団体は再開発にむけた立ち退きを強行するための「連帯責任」を負わされていると主張し、抗議の意を込めて同スペースを占拠し始めた。
リドリー・ロード・マーケットはジェントリフィケーションに抗い闘う最前線にあり続けている
闘いは続く
ラロシェットは3月31日までに退去を命じ、シャッターを閉鎖。これはショッピング・ビレッジだけでなく、リドリー・ロードのコミュニティに全体に対する攻撃であり、占拠はその抵抗の闘いである。
出店者たちはショッピング・ビレッジを占拠し続けている。支援者はシャッターが下りないように阻止し、平和的に運動を維持してきた。家主が照明を遮断しても彼らは持ち堪えている。
ショッピング・ビレッジの「地域社会価値資産(AVC)」としての指定は2024年に失効したが、今回の紛争を機に再指定に向けた動きが起こっている。その一方で複数の商店主が組合を結成、組合は「ショッピング・ビレッジはリドリー・ロードの心臓部」、「人々の出合いの場であると同時に人々が抱える様々な事柄について気軽に相談できる場所でもある」と述べた。
ビレッジを取り戻してほしいという声に呼応し、AVC指定の復活を望む取り組みも進められている。区側はこれに対し支持の表明をしている。「ショッピング・ビレッジは地域経済、社会インフラとして極めて重要な存在」だとしている。
AVCに指定されれば、事業者を守ることもできる。事業者たちはショッピング・ビレッジを正式に「地域資産」(AVC)として認定するよう申請した。
そして、9月24日、ショッピング・ビレッジは再び地域にとって価値ある資産としての認定AVCを正式に復活させた。
事業者たちはハックニーの人々に安全で居心地の良い取引環境を再び提供できることを願っている。そしてリドリー・ロード・マーケットはジェントリフィケーションに抗い闘う最前線にあり続けている
占拠を続ける活動家の一人は、「抑圧や不正義があまりにも大きくなり、抵抗する好機が生まれることもある。この占拠活動は、権力に対して真実を突きつけることができる、そうした稀有な機会の一つであり、支配や服従を甘んじて受け入れる必要などないのだと実感できる瞬間だ」とのべている。
セーブ・リドリー・ロードを中心に事業者支援者たちは互いに連絡を密にし、占拠の当番を決めている。まだビレッジの前では何かしらのイベントが計画されている。彼らの占拠はまもなく200日を超えようとしている。


