●JCA-NET:国旗損壊罪反対声明―コミュニケーションの権利運動の観点から
2026年6月28日
以下の理由から、JCA-NETは、今国会で審議中の国旗損壊罪について、修正などではな
く、廃案とすべきであることを主張します。
法案は「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊
し、除去し、又は汚損」した場合を処罰するとしています。法案提出理由も「処罰規定
を設ける必要がある」から、としか述べられておらず、理由などどうでもよく、ともか
く処罰するのだ、という態度があまりにも露骨です。
人に対してではなく「国旗」のような「物」に対する行為について、「不快又は嫌悪の
情を催させる」というだけの理由で処罰対象にするのは、言論表現の自由、思想信条の
自由など基本的人権としての自由の権利を侵害するものであって、容認できません。そ
の一方で、政府は、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させる」最大の人権侵害でもあ
るヘイトスピーチやヘイトクライムなど人権侵害行為について、むしろ寛容な態度をと
り続けてきました。政権与党の政治家たちは選挙で公然と対立陣営への誹謗中傷行為す
ら行なっているのです。「国旗」の方が人権よりも重要であるという政権のイデオロギ
ーをこの法案は端的に示しており、容認できません。
また、「不快又は嫌悪の情を催させる」行為であるという処罰の理由は、捜査機関や政
府の好き嫌いで恣意的に処罰ができるというもので、感情的な同調圧力効果を制度化し
、人々の内面の自由を大きく侵害します。これはナショナリズムが人々の価値観や感情
だけでなく行動にも影響する最も警戒すべき害悪です。
本法案の影響は計り知れない範囲にまで及びます。国旗損壊罪が、更に幅広く国家の象
徴的なモノや行為に対する批判や拒否の表現行為の犯罪化への突破口になりかねません。
国歌など様々な象徴から更には天皇や皇室に対する批判的な表現に対しても犯罪化さ
れることに繋れば、まさに不敬罪の復活になります。とくに、アートの領域への影響は
図り知れないものがあり、アーティストや美術館などが「国旗」をモチーフにした表現
を自主規制したり断念するなど、影響の及ぶ範囲は極めて広範囲になります。国旗損壊
罪法案は、こうした広範囲にわたる表現行為の抑圧を含意したものであることを私たち
は強く危惧します。
インターネットの表現行為との関連では、法案「附則」の2に「検討」というタイトル
で記載されている文言が見過せません。この文言は、インターネットにおける威嚇的な
検閲圧力を正当化するものです。附則2では以下のように述べられています。
「この法律の規定については、この法律の施行後三年を目途として、国旗を損壊し、除
去し、又は汚損する状況に係る映像に関するインターネット等の利用の状況、損壊され
若しくは汚損された国旗を公然と陳列する行為又はこれに類する行為の発生の状況その
他この法律の施行状況等を勘案し、国旗を大切に思う国民感情を保護するのに必要かつ
十分なものとなっているかどうか等の観点から検討が加えられ、必要があると認められ
るときは、その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるものとする。」
ニュース報道などで、SNSなどの表現行為は除外された、などと報じられた根拠がこの
文言です。この附則が意図していることは、インターネットでの「国旗」を用いた「毀
損」表現に対して、通信事業者などによるユーザーへの「自主規制」を促し、もし政府
の納得のいく対処がなされない場合は、3年後の見直しでは法的な規制に踏み込む、と
いう明らかな脅し文句になっています。官民連携の強化が謳われるなかで、否応なく政
府の政策に協力を強いられている通信事業者業界の現状において、プロバイダー等が国
家の意向を忖度して、ユーザーの正当な言論・表現の自由や思想信条の自由を監視する
よになることには絶対反対です。インターネットのサービス・プロバイダーを活動の重
要な柱としているJCA-NETにとって、こうした自主規制や検閲圧力そのものがまさに私
たちの活動への深刻な干渉を意味し、絶対に認めることはできません。
しかもビッグデータとAIの時代には、政府の意図を反映する形でのアルゴリズムが導入
されて、検閲が自動化されるおそれが高くなります。そして、「国旗」損壊行為を監視
することを口実に、デモや集会へのこれまで以上の監視強化や網羅的にネットの動画や
画像を監視しそのなかから該当するであろう表現を抽出したり、「人に著しく不快又は
嫌悪の情を催させる」表現について、ユーザー同士の密告が促されるなど、表現行為へ
の広範囲にわたる監視体制の導入のきっかけにもなりえます。他方で、「国旗損壊」を
犯罪化することによって、「国旗」を用いた批判的な表現行為者に対して、右翼団体な
どによるテロや暴力行為が正当化されたり、こうした暴力や威嚇による人権侵害を黙認
する法的な後ろ盾となる可能性も否定できません。
以上の理由から、JCA-NETは、国旗損壊罪法案に反対し、廃案を求めるものです。
●アムネスティインターナショナル日本支部<声明>
「国旗損壊罪」創設は表現の自由を不当に制限 方針撤回を強く求める
2026年6月25日
現在、国会において、日本の国旗の損壊行為に刑事罰を科す「国旗損壊罪」創設の動き
が進んでおり、今国会での成立を目指す方針が報じられています。アムネスティ・イン
ターナショナル日本は、この拙速な法制化の動きに対し、国際人権法および日本国憲法
が保障する「表現の自由」を不当に制限する恐れがあることから、強く反対を表明しま
す。私たちは、国旗に敬意を払う自由を否定するものではありません。しかし、表現は
、たとえ一部の人びと、あるいは多くの人びとにとって、不快あるいは侮辱的と受け止
められるものであっても、それだけで処罰されるべきではありません。国家やその象徴
に対する賛同だけでなく、批判や抗議を表明する自由が同時に保障されねばなりません。
与野党4党が共同でこの6月に国会に提出した刑法改正案では、「日本国に対して侮辱を
加える目的で、国旗を損壊し、除去し、又は汚損した」場合には、処罰されると書かれ
ています。これは単なる財産の保護ではなく、国旗の象徴的価値を損なったり、国家へ
の敬意を欠くという理由で、特定の表現に刑事罰を科そうとするものです。
国家やその象徴に対する、批判を含む政治的・象徴的な表現は、自由権規約第19条およ
び関連する国際基準(自由権規約委員会一般的意見第34号を含む)によって保護されて
います。日本も法的に拘束される自由権規約の監視機関である自由権規約委員会は、公
的人物や公的機関に関する政治的・公共的な議論において、表現の自由が特に高い価値
を持つことを強調しています。また、国旗や国家的象徴への不敬などを対象とする法律
について懸念を表明しています。
日本国憲法第21条も一切の表現の自由を保障しています。「国家への敬意の欠如」を理
由に処罰を科そうとする発想は、憲法第21条、および個人の尊厳を尊ぶ憲法第13条の理
念と矛盾します。国家は市民からの尊敬や忠誠を刑罰によって強制するべき存在ではあ
りません。なお、日本の現行刑法92条は外国国章損壊等罪を定めていますが、これは良
好な国際関係を維持するためであって、決して自国の威信を高めるためではありません。
アムネスティ・インターナショナル日本は、国旗や国家的象徴への侮辱・不敬を禁止す
る法律には明確に反対の立場をとっており、この立法が単に国旗の問題にとどまらない
可能性も懸念します。国家の象徴に対する「侮辱」や「不敬」を処罰する考え方が広が
れば、将来的には、かつての不敬罪のように、国家元首や政府高官、あるいはその他の
国家的象徴に対する批判的表現をも刑事罰の対象とする立法へと拡大する危険性を否定
できません。このような動きは、社会に不可欠な政治的言論の自由を著しく萎縮させる
リスクを伴います。
私たちの社会において必要なのは、異論や抗議を含む多様な意見が自由に表明される環
境を保障することです。表現の自由に対する制限は、国際人権法上、目的が正当であり
、かつ、その制限が本当に必要で、目的に対して過度な制限になっていないという「必
要性」と「比例性」の厳格な要件を満たさなければ認められません。さらに、暴力、憎
悪、差別の扇動など、極めて限定的な場合を除き、表現は保護されなければなりません。
本法案については、その要件を満たしているとは到底考えられません。
アムネスティ・インターナショナル日本は、日本政府および国会に対し、国際人権法お
よび日本国憲法が保障する表現の自由を尊重し、本法案の今国会における成立方針を撤
回するよう強く求めます。
以上

